
2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる(反転させる)国際的な目標であるネイチャーポジティブ(自然再興)。生物多様性の急速な損失を止めるために様々な取り組みが行われています。
三重県尾鷲市は、企業と地域の協働が進むネイチャーポジティブを積極的に取り組んでいる自治体の一つです。どのようなことに、どのように取り組んでいるのか、それを知るために8Media編集部は、2026年1月21日(水)にYAMAHA MOTOR Regenerative Lab(リジェラボ)にて開催された「尾鷲ネイチャーポジティブアクション会議inみなとみらい」に参加しました!その中から第二部「事業協力/共創セッション ー地域のネイチャーポジティブに関わることの可能性ー」の模様をお伝えします。
今や、気候危機による生態系損失は、企業のサプライチェーンや地域の持続性に直結する死活問題に。一方的に消費するのではなく、人と自然を資本として価値創造の流れに一体的に組み込む「人的資本経営」へと経営の在り方が変わりつつあります。人的資本経営と自然資本の回復を連動させることを鍵と捉え、尾鷲市と連携している企業の活動が「事業協力/共創セッション ー地域のネイチャーポジティブに関わることの可能性ー」で紹介されました。
冒頭で紹介されたのは「尾鷲ネイチャーポジティブコンソーシアム」を運営している株式会社paramitaの林 篤志さんと大澤 哲也さんによるコンソーシアムの概要について。
三重県尾鷲市では、ネイチャーポジティブ推進のために「尾鷲ネイチャーポジティブコンソーシアム」を公益財団法人日本自然保護協会と企業とともに2025年に発足。尾鷲のネイチャーポジティブを企業とも連携し、推進しています。市全域の森林の評価と生物多様性の指標づくり、森林整備や藻場再生などに取り組んでいます。
昨年の寄付総額はなんと1億4500万円。現在では16社が参画しています。これほどまでに多くの支援が集められた背景には、企業にとってネイチャーポジティブに取り組むことがCSRや社会貢献としてではなく、未来に対して生き延びていくための新たな価値や事業の創出につながると捉えているからと話す大澤さん。
尾鷲市で行われている取り組みの一つが里山里海の再生です。例えば、尾鷲市は総面積の92%が山林に覆われています。市全体の森林のゾーニングマップを作成しデータを収集。森の実態を数値化することで、カーボンクレジットのステークホルダーとのコミュニケーションに活用しているそうです。
参画企業の社員も参加した生態系調査ワークショップでは調査結果を登録することでネット上でも尾鷲市の生態系を知ることができるように。林業が盛んだったため、ヒノキが多く植えられていた尾鷲でも里山再生の取り組みによってクヌギやコナラを好むカブトムシの生息が確認され、希少種を含む130種程が見つかったそうです。
海と山がとても近いという地形のため、海の豊かさも森に大きな影響を与えます。そのため海の整備も重要な課題になっています。2025年は30.6ヘクタールもの藻場を再生することができ、人と自然の環がコンソーシアムを通じて広がっていったことが伝わってきます。
本講演では、コンソーシアムに参画している企業とパートナー企業のそれぞれの取り組みも紹介されました。ここではその一部をご紹介します。
1社目は株式会社FOOD & LIFE COMPANIES。回転寿司の「スシロー」などを中心に事業展開を行っています。尾鷲市との関わりは20年近くに渡るのだとか。藻の種苗対策やブリ用の自動給餌器の開発に取り組み、資源の枯渇と環境負荷の提言を目指しています。「水産物を取り扱うため、自然の恵みが事業に直結するからこそ、海の生態系保全は必然的なこと」。その言葉は、ネイチャーポジティブに取り組むことが企業だけでなく消費者にとっても大きな意味があることに気づかせてくれました。
また自然に対してだけでなく、地域の地盤事業も本コンソーシアムの「実地」の一つ。2社目は求人サービス「バイトル」などを運営しているディップ株式会社です。尾鷲高校と高校DX加速化推進事業に取り組んでいます。一次産業の担い手不足は全国的な課題でもありますが、尾鷲でも卒業後は地域を出てしまう人が少なくありません。
そこで取り組んだのが尾鷲市の特産品である甘夏の収穫体験。中でも「尾鷲甘夏」は旨みが凝縮され、甘みと酸味のバランスが絶妙で、さわやかな味わいがあり、多くの人に好まれている一品です。そうした特産品があることや、そこで働くイメージが伝わっていないことも人工流出につながっていると考えられたからです。その体験を元に生成AIも活用しながら情報発信の在り方を模索することで、関心を高めていくことができました。
3社目は株式会社サカイ引越センターです。同社は通常の引越料金に1,100円を追加することで、移動時に排出されるCO2(約0.056t)をカーボンクレジットで相殺(オフセット)する環境配慮型サービス「エシカル引越」を提供し、三重県尾鷲市の森林保全や地域活性化に役立てています。これまでに40,000件を超える利用があり、消費者の関心の高さが伺えるだけでなく、ネイチャーポジティブが正に企業競争力につながった事例と言えるのではないでしょうか。
企業だけではなく、国も地方創生につながる重要な国家戦略としてネイチャーポジティブを重視しています。地方創生に関しては2015年に「地方創生1.0」として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されています。10年が経過し見直した結果、2025年に打ち出された「地方創生2.0」の基本構想に新たに記載されました。
内閣府は「地方創生×ネイチャーポジティブの推進に向けたモデル支援事業」を公募し、尾鷲市も選出された自治体の一つです。地域における脱炭素社会の実現、循環経済の実現、生物多様性の保全などを通じた地方創生について、専門的な視点とあわせて総合的な視点で検討できる人材「グリーン専門人材」の育成支援制度を整えるなど、実現に向けたインフラ整備に取り組んでいます。
登壇されていた内閣府地方創生推進室の鵜飼氏は、今後の課題として「地域企業もネイチャーポジティブに合意し、連携していくこと」と話します。ネイチャーポジティブに地域企業が関わることは地域の経済的発展、そして地方創生にもつながると言えるでしょう。
イベント後の懇親会では、ジビエや甘夏など尾鷲の特産品を使った食事が提供され、ネイチャーポジティブを五感で感じるイベントでした。
<編集後記>
これまでと異なり、経済活動と環境保全の関係性が密接になり時代の変化を感じます。情報として事例を知るだけでなく、「尾鷲ネイチャーポジティブアクション会議inみなとみらい」は「想いを持って動いている人たち」と出会い、交流することで、そうした取り組みへの解像度を上げることができた気がします。
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8 編集室

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