
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。
「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。
Part1では、自動車産業における脱炭素化の取り組みとして、ハイブリッド車や電気自動車の導入を中心に見てきた。今回は視点を広げ、循環性全般に焦点を当てる。主なテーマは、バッテリーのリサイクル、車両のライフサイクル設計、生産効率の向上、そして持続可能性と回復力を兼ね備えた次世代のモビリティモデルである。
自動車産業の転換において、バッテリーの循環性、特にリサイクルは不可欠な要素となっている。現在、EV用バッテリーのリサイクルインフラは発展途上にあり、これは多くのEVがまだ比較的新しく、使用済みバッテリーが本格的に出回っていないためである。
しかしすでに、循環性を高める複数の取り組みが始まっている。たとえば、使用済みバッテリーを再利用し、定置型エネルギー貯蔵など負荷の少ない用途に活用する「セカンドライフ」はその一例だ。こうした再活用によって、バッテリーの有効寿命が延び、電力系統のバックアップにも貢献する。
かつてはバッテリーメーカー主導だったこうした取り組みも、現在では多くの自動車メーカーがクローズドループ型の資源循環システムへと投資を進めている。これは特に、銅、レアアース、ニッケル、マンガン、コバルト、黒鉛といった重要鉱物の調達難を背景とするものだ。国際エネルギー機関(IEA)によれば、EVには従来の内燃機関車の6倍以上の鉱物資源が必要となる。しかも、それらの鉱物は一部の国に集中しているため、資源循環の確立は日本や欧州にとって特に重要である。
脱炭素化の文脈で語られることが多い自動車業界の循環性だが、より包括的な視点で見れば、近年はライフサイクル全体にわたって循環的な進展が広がっている。車両設計の段階から、耐久性、分解しやすさ、リサイクル性といった要素が意識されるようになってきた。こうした設計思想により、車両はより修理しやすく、アップグレードしやすく、廃棄時も効率的に資源回収が可能となる。
自動車の生産は数千点におよぶ部品とサプライヤーを伴う複雑なプロセスであるため、資源の最適化と廃棄物削減のために、スマートファクトリーやコネクテッド・サプライチェーンが活用されている。リアルタイムでのモニタリングやデータ解析は、製造効率の向上に大きな役割を果たしている。
なかでも大きな変化は共通プラットフォームの導入である。欧州ではフォルクスワーゲンのMQBやステランティスのCMPが業界標準となっており、日本ではトヨタのTNGAおよび電動車向けのe-TNGAが効率化を進めている。これにより生産コストの削減、部品の共通化が進み、製造や調達、さらには修理の負担も軽減されている。
循環性の重要な指標のひとつは「車両がどれだけ長く使われるか」である。共通プラットフォームにより修理が容易になるだけでなく、非純正の補修部品(プライベートブランド品)の利用が進むことで、修理費用が下がり、車両の延命が促進されている。これらの部品は純正品に比べて20〜50%安価なことが多く、経済的にも魅力的である。
また、車両の最終段階でのリサイクルにも注目したい。日本はこの分野で世界をリードしており、2000年代初頭の法整備により、現在では自動車の95%以上がリサイクルされている(日本自動車リサイクル促進センターによる)。トヨタは専用のリサイクルプラントを設置し、ロボットとAIを活用した精密な分解と素材回収を行っている。
同社の「Toyota Circular Factory(TCF)」では、以下の3分野に重点を置いて廃車を再活用している:
再利用可能な部品:検査に合格すれば流通市場へ戻す。
再製品化可能な部材:バッテリーやホイールなど、修理・再加工・再製品化・リサイクルの可能性を検討。
再資源化可能な素材:銅、アルミ、鉄、プラスチックなどを回収し、新車の部品生産に用いる。
こうした循環モデルは、資源の浪費を防ぎながら、同時に経済性も確保する仕組みとして機能している。
日本車は耐久性の高さでも評価されており、その再販価値は世界的にもトップクラスである。トヨタは5年後の残価率(新車価格に対する割合)で世界一を誇り、ホンダ、マツダ、スバルも上位にランクインしている。これは品質の高さを示すだけでなく、「長く使うこと」と「新車販売による利益確保」が必ずしも矛盾しないことを裏付けている。
今後は、モビリティの在り方自体が変化していく。欧州や日本では、短期レンタルやカーシェアリングが普及しつつあり、車両の稼働率が高まっている。最近では、月額制で車を「所有せずに使う」モデルも登場しており、自動車メーカー自らが車両を保有しつつ、利用者には一生涯保証などを提供する試みも始まっている。これらは経済的・環境的要因の両面から促進されており、「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)」という概念が現実のものになりつつある。
自動車産業における循環性は急速に進化しており、日本と欧州の事例は多くの示唆を与えてくれる。設計、生産、修理、リサイクル、そしてビジネスモデルの革新において循環性が浸透することで、環境的責任と経済的合理性は両立可能であるというビジョンが、着実に現実となりつつある。
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writer |
Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。
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