
長野県信濃町のように自然に囲まれた環境で暮らしていると気づかされることがある。 それは「暦」は伊達じゃない、ということだ。 多い時は3〜4mくらい積もっていた雪も「立春」あたりから溶け始め、「春分」を過ぎると厚着では 汗ばむ日すらある。本当に日本の暮らしを表すものなのだ。
気づくといえば、のぶさんは 「福寿草」の存在に最近気づいたそうだ。春を告げる縁起の良い花として知られているが、その花をなんと近所の軒先で見かけたという。「高山にあると思っていたから、こんな身近にあるとは思っていなくて!思わず二度見したくらい。」と興奮気味に話してくれた。
春だからか自然だけでなく、人もソワソワしているように見える。特に3月の野尻湖は日本各地からソワソワした老若男女が集ってくる。そう、この時期は2年に一度、野尻湖で発掘調査が行われるのだ。1948年に初めてナウマンゾウの化石が発見され、1962年から2023年まで23回行われてきた野尻湖発掘。 今年は24次発掘調査となる。
未経験者も含めて様々な人が参加するが、事前に講習会が開かれるなど始まる前からしっかりとサポートしてくれるのが心強い。発掘に参加した日は、動いていると上着を脱ぎたくなるほど日差しが強かった。 会場に着くと発掘はだいぶ 進められているようだった。ここは普段、湖の底のため土を目にすることはない。発掘フィールドに入ってみると、掘り進められたことで現れた地層を目にすることができる。こんなにも長い月日を経て、再び日の目を見ることになると誰が予想できただろうか。
道具を手にして、ゆっくりと土を取り除いていくと木片のようなものが出てきたりする。つい見落としてしまいそうな些細なものが、実は重要な発見につながるかもしれない、とドキドキしてくる。一つ一つを丁寧に記録に残していく。ここにいる 一人一人が 歴史の証人になるのだ。自ずと一体感が生まれてくる。
ここ野尻湖でナウマンゾウなどを狩猟していた人類(野尻湖人)がいたという確証は得られていないそうだ。
「もしかしたらその痕跡を見つけられる、かもしれない」
「新しいナウマンゾウの化石が見つかる、かもしれない」
たくさんの「かもしれない」という不確かだからこそ可能性に溢れていることを表すこの言葉は発掘調査団ではお約束のように語尾についてくる。
発掘の感想を尋ねてみると、のぶさんはこう話し始めた。
「参加者にね、 歯医者さんがいらしたの!人間の歯医者さん。 動植物学や、地質学、考古学といったたくさんの専門家の方々がいらしていることは知っていたけれども、まさか歯についても知識が必要になるとは思わなくて。こんなにも幅広いジャンルの専門家が、この信濃町に集って同じ時を過ごしているということが、本当にすごいことだなと思うの。 驚いちゃった!」
と嬉しそうに話している姿を見ていると発掘調査団の方々も皆、こんな感じの童心にかえったような笑顔だったな、と思い出す。そんな笑顔をたくさん見たくて、ナウマンゾウと野尻湖人はかくれんぼを続けている、かもしれない 。

llustration | Mayu Yamagata
「すまうもの。くらすもの。」のイラストは信濃町在住アーティストの方々によるものです
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