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EUのサーキュラーエコノミー政策その全体像を紐解く

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複雑で難解に見える「欧州グリーンディール」。しかし、それは企業経営やキャリア形成に直結する「教養」として理解しておくべきテーマです。GDPRが世界の常識になったように、欧州グリーンディールもまた、やがて世界を変えるルールとなります。

8 Hachi Mediaで好評だった「教養としての欧州グリーンディール」での連載がきっかけとなり、始まった講演会の第二回が2025年11月14日、東京都大手町のClimate Tech特化施設「0 Club(ゼロクラブ)」にて、イベント「欧州グリーンディール:サーキュラーエコノミー政策とプラスチックリサイクル」が開催されました。会場には、環境経営に関心を寄せる企業担当者やスタートアップ、研究者、行政関係者など多彩な参加者が集い、サーキュラーエコノミー政策と、プラスチックリサイクルに関する潮流について議論が繰り広げられました。

本イベントの講師を務めたのは、複合プラスチックのマテリアルリサイクルを推進するスタートアップ・株式会社esaの米久保秀明です。EUの循環経済(CE)政策の構造、プラスチック規制の全体像、そしてこれから数年で日本企業にも確実に影響が及ぶ領域について、一次情報ベースで解説します。


欧州はなぜ「気候」と「循環」を一体で進めるのか

欧州グリーンディールは、2050年カーボンニュートラルという大きな旗印を掲げています。しかし、その根底には、単なる気候対策にとどまらない思想があります。

気候中立を実現するためには、エネルギー転換だけでなく、「原料のつくり方」「製品の使い方」「廃棄の方法」そのものを変えなければ達成できない
この考え方が欧州では広く共有され、政策体系にも明確に組み込まれています。

パリ協定(2015年)やIPCCの1.5℃報告書(2018年)を経て、EUは「気候 × 循環」という二つの視点を統合しました。2021年には欧州気候法が成立し、2030年までに温室効果ガスを55%削減する“Fit for 55”が本格的に動き始めています。

米久保氏は、この“気候と循環の統合設計“こそが、日本と欧州の最も大きな違いだと指摘します。


CBAMとETS:国境を越えて影響する“新しい競争条件”

欧州が進める規制の中でも、とりわけインパクトが大きいのが「国境炭素調整措置(CBAM)」です。CBAMは、脱炭素の努力が域外企業の優位性になることを防ぐための仕組みで、いわば“炭素排出量の関税”のような制度です。

現在は鉄鋼やアルミなどが対象ですが、2025年末にはプラスチック原料(ポリマー)が対象に加わるという発表可能性が非常に高いとされています。2030年までには、EUの排出量取引制度(EU-ETS)の対象セクターを段階的にCBAMへ統合する方向性も示されており、これは原料調達やサプライチェーンに大きな変化をもたらします。

このように、欧州政策は「欧州内のルール」ではなく、世界中の企業に作用する“市場ルール”になりつつあるのです。


サーキュラーエコノミー政策:二階建て構造で進む“市場の再設計”

EUの循環政策は、一見複雑に見えますが、実は明確な構造があります。
米久保氏はそれを「二階建て構造」と呼びます。

  • 上位の枠組み法:循環の基本原則を定める(WFD、CEAPなど)

  • 下位の個別法:産業ごとに具体的なルールを定める(PPWR、ELV規則、電池規則など)

この二階建てによって、EUは分野ごとの課題に合わせながら、市場全体を段階的に循環型へ移行させています。例えば廃棄物枠組指令(WFD)は“廃棄物ヒエラルキー”や“汚染者負担原則(PPP)”を定め、すべての個別法の基盤となります。一方、PPWRやELVなど個別法は、その原則を「製品レベル」「産業レベル」で具体的な義務に落とし込んでいます。


PPWR(包装廃棄物規則):包装市場を根底から変える巨大ルール

なかでも今、最も注目されているのが「PPWR(包装廃棄物規則)」です。
これは“欧州市場に製品を出すための必須条件”を大きく変える強力な規制で、以下の特徴があります。

  • 再生材利用の数値義務

    2030年に35%、2040年に65%といった、具体的な再生材比率が求められます。

  •  循環設計ランクによる“上市制限”

    2030年以降は「A〜Cランク」の包装のみ市場に出すことができ、2038年以降はA・Bのみが許されます。

  •  PFASを含む包装材の制限

  •  過剰包装の禁止

これらは、単なる環境配慮ではなく、“市場参入要件”そのものの再定義です。
欧州に輸出する企業にとって避けて通れないテーマであり、米久保氏は「2030年が大きな分岐点になる」と語ります。


エコデザイン規則(ESPR)とデジタル製品パスポート(DPP):設計とデータの時代へ

欧州は今、「製品は設計段階から循環可能でなければならない」という考え方を標準化しようとしています。それを制度として支えるのが「エコデザイン規則(ESPR)」と「デジタル製品パスポート(DPP)」です。

ESPRは、エネルギー効率だけでなく、
・耐久性
・修理のしやすさ
・分解のしやすさ
・再生材比率
・有害物質情報
といった項目を“設計要件”として求めるものです。

さらにDPPは、製品に紐づいた情報をサプライチェーン全体で共有するための仕組みで、電池分野ではすでに義務化が始まっています。

欧州が目指しているのは、「素材 → 製品 → 使用 → 回収 → 再生」をデジタルでつなぐ世界です。この流れが拡大することで、企業にはより透明性の高い情報提供が求められるようになります。


マイクロプラスチック規制:分野ごとに広がる“全方位規制”

プラスチック問題の中でも、マイクロプラスチックに対する規制は急速に拡大しています。

  • REACHによる意図的添加の禁止

  • SUP指令による特定使い捨て製品の禁止

  • タイヤ摩耗やブレーキ粉じんへの規制

  • ペレット管理規則の義務化

  • 都市排水指令・飲料水指令での監視強化

これらはバラバラに見えて、実は「発生源ごとの体系的アプローチ」です。
米久保氏は「欧州はマイクロプラスチックを“部分ではなく全体”で捉え、政策を組み立てている」と説明します。


自動車産業に迫る大転換:廃車プラスチックの循環強化

欧州では、廃車プラスチックの循環が大きな課題となっています。
現状では約50%がASR(自動車破砕残さ)に向かい、その60%が廃棄されています。こうした状況を踏まえ、EUは強い目標を打ち出しました。

  • 2031年頃、車体樹脂の25wt%以上を再生材に

  • その一部は自動車由来クローズドループでの調達を義務化

これは、素材産業だけでなく完成車メーカー、回収・リサイクル事業者など、サプライチェーン全体に影響する大きな変革です。


日本はどう向き合うべきか

日本の資源循環政策は、3RやEPRといった基本概念はEUと共通しています。しかし、決定的な違いが一つあります。日本はサーマルリサイクルを積極的に活用する一方、EUはマテリアルリサイクルを政策の中心に据えているという点です。

この違いが、
・再生材利用の義務化
・製品設計の要件
・LCA評価
・国際市場へのアクセス
などに直接影響する可能性があります。

米久保氏は、「2030年・2040年をターゲットとした規制の多くが、2025〜2027年にかけて“実装段階”に入る」と指摘し、日本企業にとって今がまさに準備のタイミングであることを強調します。

欧州政策の“現在地”を共有し、次の一歩を考える場に

今回の講演会では、欧州グリーンディールの理念から個別法の最新動向まで、幅広いテーマが立体的につながり、参加者の方々からは「点が線になった」「欧州の政策が一つの物語として理解できた」という声が多く寄せられました。会場である0 Club(ゼロクラブ)には、製造業、素材産業、リサイクル事業者、行政関係者、スタートアップなど多様なバックグラウンドの参加者が集まり、講演後の質疑応答では活発な議論が交わされました。

特に印象的だったのは、“欧州の話”がもはや対岸の火事ではないという実感を、多くの方が共有していたことです。CBAMやPPWR、ESPR、DPPといった欧州の政策は、いまや国境を越えて市場ルールそのものを書き換えつつあり、日本の企業にとっても避けて通れないテーマとなっています。一方で、これらを“義務”ではなく、「新しい価値づくりへのヒント」として捉えようとする前向きな声も多く聞かれました。

当日は、参加者同士で現場の課題や国内制度とのギャップを共有する姿も見られ、会場全体で「どのように準備するべきか」「日本でできる循環の形とは何か」を考える機会になりました。

今回の講演が、皆さまの事業や組織における次のアクションを考える一助となれば幸いです。8 Hachi Mediaでは今後も、国内外のサステナビリティに関する知見や動向を引き続き発信してまいります。ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

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