
持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。
1943年に日本香堂の香木などの香原料や、お香、線香の輸入に関する海外事業推進窓口として創業。現在は香原料や ホームフレグランス、アロマスクールの運営、ミネラルウォーターの輸入販売と香りを中心とした事業を展開している株式会社大香(以後、大香)。代表取締役社長の小仲 正也氏に大香と「暮らしの香り」を運営する株式会社リヴィングウィズセンツのESGに関する取り組みについてお話しを伺った。
大香ではこれまでも事業に関連して社会のためにできることを行ってきた。例えば、ミネラルウォーター事業では年間数千万本のペットボトルを輸入していたが、輸入元であるフランスやイタリアでは緑色のボトルが多く用いられていた。日本でもペットボトルのリサイクルは進められているが、透明なものが対象であることが多く、色のついているペットボトルでは難しかった。そこで大香は、メーカーと交渉し、日本仕様として透明なものをつくってもらうことに成功した。これによってこれまでは廃棄するしかなかった輸入品をリサイクル可能なものへと切り替えることができた。

他にもビーチクリーン活動などの支援を行っているが、中にはまだ時間を要するものもある。それが持続可能な香原料の調達だ。
天然香料の元となる香木。その数は減少傾向にあるという。乱獲や気象変動の影響、国際規制の強化などが要因だ。また自然の産物である香木は、香りが溜まるようになるのに長い時間がかかる。例えば白檀なら香りを湛えるのに30年くらいを要するものもあるという。消費に対して供給が追いついていないのが現状である。
大香にとってもこの問題は大きな課題であり、6年ほど前から植林や持続可能な原料の調達を進めているが、トレーサビリティーが把握しづらいこともあり、道半ばではあると小仲氏は話す。

ESGやCSRへの取り組みを続ける中で当時ホームフレグランス事業に従事していた小仲氏は将来への展望を描き始めた頃にあることをきっかけに2021年、新会社を設立した。
「ホームフレグランスで扱っているディフューザーやキャンドルの器は数ヶ月後に捨てることになります。使用期間が短いものをつくることの責任を感じていました。
今までの業態では対応が難しい課題もある中で、どのようにすれば良いのか。今後のことを考えていたときに、同じ銀座で仕事をされている方々とのお付き合いから、お店に人が立つことで、お客様の声を直接聞き、自分たちがつくったものを、自分たちの声で伝えていくことの大切さを学ぶことができました。そのための場所をつくりたかったことと、環境への配慮や働く人のサステナブルも実現したいという思いがあり、株式会社リヴィングウィズセンツ(以後、「暮らしの香り」)を設立し、暮らしの香りというホームフレグランスブランドを立ち上げました。

「暮らしの香り」は『日常の「美」を見つめる瞬間をつくる』をブランドビジョンとし、山梨県山中湖にあるアトリエで商品を製造、銀座などの店舗で販売を行っている。彼らの商品開発や取り組みの背景にあるテーマは「Sustainability / Recycle / Natural 」だ。
例えば原材料は水・バイオエタノール・ソイワックスといった植物由来・自然由来のものを多く用いている。また極力リサイクルできる容器や包装を使うだけでなく、いいものを長く使うというライフスタイルそのものを提案。モノのサステナビリティと暮らしを心豊かにするような人のサステナビリティを両立するような商品と言えるだろう。

「海外では華やかな香りが好まれますが、日本人の心をいやすには日本の暮らしに日々漂っている自然な香りの方がいいのではないかと思っています。そのためまろやかで、やわらかい香りづくりを目指しています。植物由来・自然由来の原材料を使うことで、そうした香りを実現するとともに、そのやわらかい香りが使う人だけでなく、つくる人にとっても心が癒されるものでありたいですね。
商品には富士山の麓の水を使用するなど、この土地だからこそ得られる自然の恵みを使わせていただいていますが、今後は自分たちで育てた植物から香りを採るなど、自然豊かな環境を活かして、本物の香りづくりをもっと追求し続けていきたいです。」

これらの取り組みは自然の豊かさ、大切さ、素晴らしさを伝えていきたいという想いも込められている。商品の中には定番のものだけでなく、季節ごとに季節を感じられるようなテーマの香りや旬の植物を現した香りもある。
これは例えば街を歩いていたら金木犀の香りに秋を感じて癒されるように、香りをきっかけとして自然を愛でる気持ちや暮らしをより大切にしようと思っていただけることを目指しているからだ。昨今、身体的な健康だけでなく、心の充足感や幸福感など精神的な健康も重視する「ウェルビーイング」が注目されているが、「暮らしの香り」がつくりだした香りは、ウェルビーイングをサポートしていると言えるのではないだろうか。

環境や、地域、人に対して責任のあるモノづくりをされているが、その背景にはどのような想いがあるのだろうか。その点について小仲氏はこのように話す。
「学生時代に留学先で、ほぼ毎日通っていたお店がありました。その紙袋に『We have an obligation to give back to society that gives us so much』というメッセージが書かれていたんです。それを見て企業は社会に対して果たす義務があるんだ、社会に対して何を貢献できるだろうかとずっと考えていました。
世の中に何かを出す以上、そこには責任があると思っていますし、今でもそこに思いを馳せています。そういうメッセージを自分たちも責任を持って発していけるようになりたいですね。矛盾が生じてしまうこともありますが、矛盾を感じる箇所を少なくしていきたいと思っています。」
「暮らしの香り」では使い残しのキャンドルやフレグランスの回収を行っている。店内にある回収BOXに持ち込むと、それらを混ぜて溶かしてつくりなおされた小さなキャンドルがプレゼントされる。どの香りが、どんな配合で混ざっているのかは、そのときのタイミングにより、何に出会えるかわからないという楽しみもある。こうしたリサイクルへの取り組みも「世に出す責任」を果たしたものの一つだ。

香りという身近な存在をきっかけに心が巡り、自然と暮らしがつながる。環境や働く人のサステナビリティに配慮したモノづくりを通じて、人・地域・自然と企業がつながり、社会に循環が生まれていく大香とLiving with Scents(暮らしの香り)の活動。これからも続いていくそれは、香りが漂い広がっていくように、いくつもの環を広げていくのだろう。

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