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【老舗ノESG】月桂冠株式会社 - 後編 -

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持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。


1637年(寛永14年)に創業し、京都・伏見で最古の酒蔵である月桂冠株式会社。380年を超える歴史を持ち、日本有数の老舗酒造の一つだ。その歴史の中でも、地域と密接に社会活動を続け、現在は「安全・安心」「環境」「社会・地域」「技術・文化」などの視点でサステナビリティ活動にも取り組んでいる。前編に続き、後編でも代表取締役 副社長 大倉 泰治氏に、取り組みの背景にある想いや、今後の展望についてお話を伺った。

 クラフトだけではなくサイエンスも

 

前編では月桂冠株式会社の地域との関係性について触れてきた。大倉氏は地方創生の関係性について以下のように話す。

 

「日本酒は歴史的経緯から地域とのつながりが深く、多くの酒蔵がその魅力を伝える素晴らしいストーリーを持っています。酒造りと地方創生は相性が良いとも言えます。

 

しかし憧憬のように伝えていくだけでなく、独自のアプローチも必要です。そこで考えた施策の一つが、日本酒を『クラフト』としてだけではなく、月桂冠のルーツでもある『サイエンス』と交えて伝えていくことでした。」

 

このような考えからつくられた新しい企業ブランドCMが「WORLD SAKE 月桂冠」をタグラインとして、「世界を唸らす、この一杯。」をキーフレーズに2023年から放映している。

 

映像では、前半は伝統的な酒造りのシーン、後半で革新的な技術を生み出す研究や最新の設備による酒造りのシーンを盛り込み、伝統を継続しながら、創造と革新により進化し続ける、月桂冠の企業姿勢が表現され、同社の企業理念である『CREATIVITY』の発揮と『QUALITY』への追求が伝わってくる。

 

ヒップホップグループ「韻シスト」による書き下ろし楽曲を使用したラップバージョンも大きな話題となった。「クラフトだけが酒づくり?新しい価値づくりしていかない?」というメッセージが印象的に表現されている。

 

 

 小さくてもいい、成功の機会をつくる

他にも月桂冠株式会社は「Gekkeikan Studio」というユニークなプロジェクトにも取り組んでいる。明治時代に日本酒メーカーで初めて研究所を設立し「酒を科学」することで防腐剤なしのびん詰め日本酒を世に送り出した。昭和から平成にかけて現在の吟醸酒造りの根幹となる酵母(セルレニン耐性酵母)を発見し、育種して全国へ普及させた。こうして日本酒業界の技術革新をリードし続けてきた同社が『日本酒を、進化させる実験。』と銘打ち、最先端の日本酒を試作の段階で提供する実験的な試みである。

「日本酒業界で新商品を世に出すのには、とても時間がかかります。酵母を育てるのに5年を要することも。長期間をかけて開発しても、商品化の目処が立たないこともありますし、店頭に並べることができたとしても半年程度で他の製品と変わってしまうこともあるのです。

業界の規模は70年代をピークに縮小し続けています。新たな挑戦をし続けなければならない。けれども出口が見えない挑戦は、人を疲弊させることもあります。小さくても良いから成功を体験できる機会をつくりたいと思ったのが、プロジェクトを始めた理由です。

『試作の段階で提供する』ということは開発者にとっても出口が用意されることにつながります。リアルタイムでお客様の生の声が聞けることは、開発者の意欲を高めるだけでなく、お客様自身も共同開発者のように参加している感覚を持っていただけます。こうした取り組みが新たな日本酒の可能性につながるのではないでしょうか。」 

お客様や開発者の想いを大切に、試行錯誤しながら新たな可能性を模索する。「QUALITY・CREATIVITY・HUMANITY」を象徴しているように感じられた。

安心安全を大切に日常に寄り添う

日本酒は古来から日本の食文化と深く結びついてきた。神様へのお供物でもあり、「和食」文化の一部でもあり、祝い事から日常まで、あらゆる場面で私たちの暮らしに欠かせないものとして存在してきた。

 

しかし生活様式の多様化などにより、その楽しみ方は変わりつつある。日本の伝統文化を継承していくこともSDGsでは重要な項目の一つだ。最後に、日本酒をどのような存在にしていきたいのか、大倉氏に今後の展望を伺った。

 

「日本酒は日常ではなくなっています。だからこそ日常で飲む意義を改めて見出すようにしたいですね。週に一升も呑まなくていい。週一回でも日本酒を呑む人の率が上がってくれたら、と思っています。若い時には外食時に味わっていた人が、歳を重ねて家庭で家族と味わうようになるといった楽しみ方も良いですね。

 

これまで高いものから安いものまでマルチブランド化を進めていました。しかし市場はどんどん細分化してきている。まずは専門的ブランドをつくり、それぞれに特化したことに取り組んでいく予定です。

 

月桂冠が大切にしてきた「安心・安全」はこれからも守り続け、突き詰めながら挑戦し続けていきたいです。」

 

『日本酒造りにはロマンがある』と言われることもあるそうだ。そのためには常識から外れてみることも必要になると大倉氏は話す。月桂冠株式会社の380年を超える歴史は、その証とも言えるだろう。そしてそこには「ESG」という概念がなかった時代から、続く持続可能な社会づくりの歴史もあるのではないだろうか。

前編はこちら

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