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【老舗ノESG】月桂冠株式会社 - 前編 -

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持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。


1637年(寛永14年)に創業し、京都・伏見で最古の酒蔵である月桂冠株式会社。380年を超える歴史を持ち、日本有数の老舗酒造の一つだ。その歴史の中でも、地域と密接に社会活動を続け、現在は「安全・安心」「環境」「社会・地域」「技術・文化」などの視点でサステナビリティ活動にも取り組んでいる。代表取締役 副社長 大倉 泰治氏に、その取り組みの背景にある想いや、今後の展望についてお話を伺った。

社員の一生を大切にする

 

月桂冠株式会社は日本で初めて科学的アプローチを取り入れ、日本酒の醸造を行った企業である。明治時代に研究所を設立し、杜氏まかせだった酒造技術に科学的管理を導入したことで防腐剤を使わない日本酒づくりを実現。醸造技術に大きな革新をもたらした。これをきっかけに、京都・伏見だけでなく全国的な酒造メーカーとなる。現在、同社が大切にしている理念が「QUALITY・CREATIVITY・HUMANITY」だ。

 

この経営理念は代表取締役社長 14代目当主 大倉治彦氏が就任した1997年に制定された。これまで明文化されていなかった「月桂冠らしさ」とは何か、長年勤めている従業員も交えて、エピソードを集め企業文化を再認識してつくられた。その背景には非上場企業であっても、上場企業と同様にコーポレートガバナンスを実現していきたいという想いがあったからだという。

 

「『QUALITY』は商品の品質はもちろんですが、最近は”月桂冠”というブランドに対する信頼感を持っていただけるよう『知覚品質』(客観的な機能・性能(技術的品質)と異なり、顧客が「良い」と認めること)も含めて追求しています。

 

私たちの歴史そのものがイノベーションを体現してきたものなので『CREATIVITY』は常に挑戦し続けることを目指しています。

 

『HUMANITY』は最近では一般化していますが、当時はとても目新しい考え方でした。これは「社員の一生を大切にしなさい」と代々言われてきたことに影響を受けています。人生をかけて働いてくださったのだから、と一人ひとりを大切にする。お酒の品質はもちろん重要ですが、人間性も大事な要素。これからも大切にしていきたいです。」

 

 

人を大切にしてきたことが伝わるエピソードの中には「社員の50回忌まで法要を行っている」というものもあるそうだ。さらに「人」が重要なのは、酒造りの特性とも深い関わりがある。酒造りは各部署10人程のチームで分担しながら行う。自分の意見を持ち、メンバーと共有しながらチームとして最適な判断をするために、高い専門性を備えた人材が求められるからだ。

醸造の現場では大学院卒のバイオ技術者や研究者が現場に行くこともあるという。長年技術を磨いた職人だけでなく、様々な人材がいることがチーム力を高めているのだろう。

 

『月桂冠は良い人が多いよね、と言っていただけることが多いですね。』と大倉氏は嬉しそうに話してくれた。 

地域があるからこそ会社がある

同社は、従業員だけでなく地域で関わる方々とのつながりも大切にしている。それは造り酒屋が、地域の顔役的な役割を果たしてきたことも関係しているという。 

「日本酒の原材料である米は日本人の主食です。食べるための米をお預かりして、お酒を造る。もし造り酒屋としての利益だけを追求し、お米を買い占めたりしようものなら人の暮らしが立ち行かなくなり、やがて自分たちもお酒を造ることができなくなってしまう。

そういう特性があったことも影響しているのかもしれません。主食を預かるというのは自ずと社会性を担うことにつながります。地域の支えがあったからこそ、会社がある。だからこそ地域のことをよく考え、自分たちにできる役割を果たすことを大切にしています。」

 

その想いが具現化された取り組みの一つが、創業記念として行った工場敷地の一部を貸与した市バス停留所の待合スペース「バスの駅」の新設だ。雨風を凌ぐ設備がなかったバス停に屋根付きベンチを設置。伏見の酒蔵が並ぶ情緒豊かな街の景色に馴染むよう、格子や石畳を意匠に凝らした快適なスペースとなっている。

 

「30年」は長くない

月桂冠株式会社では1996年から30年にわたり、滋賀県彦根市の「JA東びわこ」と協働して循環型農業を続けている。肥料に酒粕を用いて、収穫した米で日本酒を仕込み、その際に出た酒粕をまた肥料に用いて稲を栽培するという循環だ。酒粕が主体の有機肥料は、土壌中でゆっくり分解されて稲の養分となる。環境負荷が少なく、化学肥料不使用・農薬半減で栽培された米は滋賀県の「環境こだわり農産物」にも認証されている。四半世紀も続いている取り組みだが、大倉氏は30年は長くないという。

 

「生産者の方々や、産地とのつながりは長ければ100年以上続いているものもあります。こうした長年の関係性がある中での取り組みの一つです。30年と年数で言うと長く感じられるかもしれませんが、回数にすると30回。農作の時間軸で捉えているとそれほど長いとは感じられません。深く信頼しあえているから新しいことを始めやすい環境にありますね。」

 

同社が取り組んでいる循環は、農業だけにとどまらない。例えば米糠は食用油や発酵調味料の原料に、酒粕は漬物や調味料として食用に供給し、一部は肥料や飼料として活用。食品として使えない植物残渣約300トン(2024年度)もその大部分を飼料・肥料化している。この徹底したリサイクルシステムにより、主力製造事業所の昭和蔵と大手蔵(いずれも伏見区)が京都市の「産廃処理・3R優良事業場」に認定されている。

 

昨今は気候変動が農作物に与える影響が大きく、農作物を主原料とする企業にとってサステナビリティに取り組むことは、事業継続そのものと直結している。大倉氏は『まだまだ課題が多い』と話す。調達先や地域、従業員などステークホルダーと互いに助け合って共に生き、共に栄える「共存共栄」の精神が、これからも同社の取り組みに表れていくのだろう。

 

後編では月桂冠株式会社の新たな取り組みを中心に今後の展望について伺っていく。

後編はこちら

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