
持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。
東京都港区白金台に位置する八芳園。400年前に作庭された広大な日本庭園が訪れる人々の目を楽しませ、心のこもったおもてなしが、ハレの日をさらに特別な日にしてくれる場所だ。その運営を行っている株式会社八芳園は1943年に創業し、料亭から始まり、結婚式などをプロデュースする「婚礼・宴会事業」に加え、昨今ではMICE事業や、地域プロモーションなど多角的な事業を展開している。
前編では、常務取締役 薮嵜 正道 氏と執行役員 工野 優理 氏のお二人に、ESGの取り組みと、その背景にある想いについて、お話を伺った。
株式会社八芳園では、持続可能な社会に向けて地域創生・産学連携・日本の伝統文化の継承など多岐にわたる活動を国内外のパートナーと行っている。中には20年近く行われてきたものもある。「サスティナブル」や「SDGs」と言われる前から、既に行われていることがあった理由の一つには、八芳園の成り立ちも影響しているという。
戦後まもなく八芳園の日本庭園は、ほとんど戦災に遭わずに、その姿を留めていた。当時の世相では、日本の伝統やその美しさが根絶やしにされてしまうのではないかという懸念があったという。四季折々の恵みを繊細に表現し堪能する日本料理。それは庭園の景色があって、より一層醍醐味を増すのではないか。
創業者の長谷 敏司氏は、料亭を経営するだけではなく、「海外のお客様に対しては日本文化を伝える場所とし、日本人に対しては心のふるさととしたい。」と考えた。この想いは企業理念である『日本のお客様には、心のふるさとを。海外のお客様には、日本の文化を。』へ引き継がれ、地域の伝統産業の再活性化や、文化継承といった活動を行う思想の背景になっている。
「私たちの考え方として社会貢献が先にあるんです。「経済」の上に「社会」がある。最近は変わりつつありますが、「経済」を優先的に考えなければならない企業は少なくありません。私たちは創業時から「社会」があって、「人」があって、その上で「経済」が成り立つという考え方でした。だから結果としてSDGsに該当した事例が多いんだと思います。」と薮嵜氏は話す。

現在、八芳園は事業方針を婚礼だけでなく、企業や自治体も対象にした「総合プロデュース」事業へと転換している。コロナ禍で行われた東京2020大会では、ホストタウン活動において食プロデュースを担当することとなり、様々な地方自治体と関わりを持つこととなった。そこで活かすことができたのが、「企画力」という八芳園の無形の資産だった。
方針転換することとなった6年前、自治体との連携は、既に多くの企業が取り組んでいた。そこで、新たな課題となっていたのが、地域創生の仕組みや、施設をつくった先の「地域の方々に喜んでもらえるか」=「ラストワンマイル」の実現。八芳園は式場を提供するだけでなく、「企画を立て、必要なものをつくり、そのための空間をつくる」というワンストッププロデュースを強みとしている。この婚礼事業で培った八芳園の「お客様に喜んでいただく」ための企画力が、自治体のニーズとマッチしたのである。こうして自治体との取り組みが増え、新たな事業価値を生み出すこととなる。

様々な取り組みを行う上で、八芳園では社内外への情報発信を重視し、意識的に行っている。現在発信されている内容の多くは過半数が自治体と、次いで企業との取り組みであり、婚礼関係は少ない。しかし、意義を伝えていくことが婚礼事業に関わっている社員にも好影響をもたらしているそうだ。
従来、婚礼は、一期一会のものであり、式で用いるものは使い切りになることが多い。そのためサスティナブルの考え方が入りにくいビジネスモデルである。しかし、自治体の問題解決をしていく中で、組織間の横の連携が生まれた。これがサスティナブルへの意識を高めることにつながり、農業・福祉との連携や、5大アレルゲンを除いた婚礼メニューの開発などに結びついた。

工野氏は八芳園におけるサスティナブルへの取り組みの特色をこのように説明する。「婚礼でお出しする料理は、定型のものではなく、新郎新婦のご希望に沿って決めています。そのために食材を探し、そこで人との出会いがある。そこから話が膨らみ、新たな出会いへとつながり、教えていただいたことの積み重ねで、少しずつ事業化してきました。出会いから広がっていることが、私たちの特色の一つとも言えます。」
また長期的な視点に立って、社会性の高いことに取り組み続けられる要因として、オーナー企業であることだけでなく、世の中もそれを重視するように変化してきたからだと薮嵜氏は捉えている。実際に、数字にも表れているそうだ。企業を選ぶ基準として、社会的意義のある取り組みをしているかどうかを、顧客も重視するようになってきている。そうした社会の変化が後押しとなり、八芳園が以前から取り組んできたことが、ファンとなるきっかけになったのだ。これらによって社会的意義と収益性の両立、すなわち継続的な取り組みを可能にしつつあるという。
続けてきたからこそ生まれた好循環が、そこにはあった。
後編はこちら▼
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