
持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。
1936年創業の、長野県下諏訪町に本社を構え国内外に味噌を中心とした事業を展開している「ひかり味噌󠄀株式会社」。厳選された大豆・米・塩だけで作った無添加味噌󠄀の「円熟こうじみそ」や有機・オーガニック味噌󠄀「こだわってます」など、安心安全で高品質な味噌󠄀づくりを行っている。1990年代から環境マネジメントシステム(EMS)の構築に取り組み続け、環境管理をESG経営の根幹と捉え、取り組んでいる。同社の、ものづくりや取り組みの背景にある想い、そして今後の展望について専務取締役 林恭子氏にお話を伺った。
ひかり味噌󠄀株式会社の環境に対する高い意識の原点は、本社のある下諏訪町に工場が立地していた時代、(※、)1970年代の諏訪湖の水質汚染にまで遡る。味噌󠄀をつくる工程では原材料を洗い、蒸すために、また設備を洗うためにと水を大量に使う。風光明媚な諏訪湖の水質汚染が深刻な問題となるなかで「地域の誇り」である諏訪湖を汚してはならない。その想いが環境負荷軽減の持続的な取り組みへとつながった。
※現在の製造拠点は、長野県上伊那郡飯島町
1998年に環境方針を制定し環境管理システムを導入。また環境保全の国際認証規格であるISO14001をいち早く取得し登録範囲を全社へと拡大し、システム構築と運用向上をし続けている。廃棄物だけでなく、製品でのプラスチックの使用量も削減するなど、持続可能なサプライチェーンの構築を支えている想いは何なのだろうか

「例えば製品におけるプラスチック使用量を減らす場合、製品をつくっている担当者からすると『紙に変えることでコストが上がる』『印刷が綺麗にできない』『新しいサプライチェーンを探さなければならない』といった負荷が生じます。それをきちんと評価する仕組みがないと、取り組まなくなってしまう。コストが上がったことで利益率が下がり評価が下がる、などということになれば、社員の意欲の低下につながります。だからこそ会社の政策をしっかりと業務に落とし、KPIを設定し、正当に評価できる仕組みをつくることが重要です。」
また、仕組みだけでなく、携わる人の意識を変えることも重視し、機会を創出している。ひかり味噌株式会社では「お客さまに安心して召し上がっていただけるおいしい商品や、健やかな食生活に役立つ商品を提供することは、社会に対する重要な責任である」と考えている。しかしその責任は、商品づくりにとどまるものではない。長期的かつローカルな視点を大切にしながら、地域社会への貢献活動にも長年取り組んでおり、本社および生産拠点と同じ長野県に立地する、長野県信濃町にある一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団が運営する「アファンの森」では、社員が、里山再生活動に参画している。
「社員一人ひとりが自然再生の現場に身を置き、行動を通じて学ぶことで、環境保全の意義や社会とのつながりを実感し、それを日々の業務やものづくりへと還元しています。」

こうしたハード(仕組み)とソフト(意識)への働きかけが、継続性を支えているのだろう。
環境負荷低減への意識は商品開発にも表れている。同社は、日本において有機認証制度が確立される30年以上前から、有機・オーガニック味噌󠄀に取り組んでいる。業界の先駆け的な存在だ。当時、海外で有機栽培に対する意識の高まり、そうした商品へのニーズが高まっていたことを受け、いち早く製品化を実現した。

林氏自身、ベトナムと中国で、オーガニック農場を視察したことがあるそうだ。
「本当にクリーンな環境の中で、一見効率が悪そうだけれども、真摯に米や大豆を作っている。その姿を見て、食の原点を感じました。現代の農業においては、収穫量を上げるために、農薬や化学肥料を使い、それによって土壌が汚染され、農業従事者には健康被害のリスクがある。効率を求める現代においては難しい選択なのだけれども、当社としては、オーガニック商品を広めることで、持続可能な農業を支援していきたいと思っています。
一方で、オーガニック商品は一般の商品と比較し収率が悪く手間もかかるため、高価格帯になることが多く、その価値を認めてもらえないとお客様に買っていただけないという難しさがあります。『オーガニックの良さ』とは何なのだろうか、というテーマについては今も社内で議論し続けています。その答えは模索中ですが、私は『手間暇かけてつくられているものが、美味しくないはずがない』と信じていますし、実際に体感しています。そのことをしっかりと伝えていきたいです。」

意外なことに「環境に良いと言われていることはたくさんあるが、本当にそれは環境に良いのか、と疑問に思うことがある」のだそうだ。
自然環境に配慮し、オーガニック商品を選ぶことは良いことと考えられるが、有機原料を海外から輸入し、日本で製品を製造したのち、その製品を海外に輸出する。そのそれぞれの輸送にはエネルギーを要する。トータルで見たときに、本当に環境にいいこととは何なのか、という疑問だ。
様々な選択肢がある中で、自分たちはどこに向かっていくべきなのか。その決断をするために必要なことは、絶えず情報を仕入れ、学び続けることだという。
「脱プラスチックを目指していますが、容器にもリサイクルPETを使うのが良いのか、バイオマス(生分解)原料を使用するのが良いのか。答えはまだありません。異なるタイムスパンや側面で物事をみると、それぞれに良し悪しがあります。だから闇雲に行動するべきではないし、経営陣や従業員にも、そのことを共有していきたいですね。」
パッケージの環境負荷低減に関して、日本より規制が厳しい欧米に向けては、オーガニック味噌󠄀シリーズの容器に、日本市場に先行して100%再生リサイクルPET樹脂を採用する。これは業界初の取り組みとなる。

アメリカ向け『Organic Miso White 500g』天面シール
自問自答し続ける。それは本質を追求し続けることと同じではないだろうか。目まぐるしく環境や技術が変化していく現代において長期的に物事を捉え、決断することは難しい。だからこそ「問い」を持ち続けることが、新たな可能性につながるのかもしれない。
前編では環境への取り組みを中心に伺ったが、後編では同社の社内や地域社会での取り組みについてご紹介する。
後編はこちら
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