
持続的な成長のために企業が社会的責任を果たすことの重要性が増しています。「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営」への関心の高まりも、その現れの一つと言えるでしょう。ですが、この考え方が提唱される以前から社会的活動と経済的活動、それらを両立してきた企業は少なくありません。名称がつく前から連綿と行われ、老舗のように続いているESG。この連載ではそんな「老舗ノESG」を取り上げ、取り組んできた企業の精神性と未来に向けたアクションをご紹介します。
1936年創業の、長野県下諏訪町に本社を構え国内外に味噌󠄀を中心とした事業を展開している「ひかり味噌󠄀株式会社」。厳選された大豆・米・塩だけで作った無添加味噌󠄀の「円熟こうじみそ」や有機・オーガニック味噌󠄀「こだわってます」など、安心安全で高品質な味噌󠄀づくりを行っている。1990年代から環境マネジメントシステム(EMS)の構築に取り組み続け、環境管理をESG経営の根幹と捉え、取り組んでいる。同社の、ものづくりや取り組みの背景にある想い、そして今後の展望について専務取締役 林恭子氏にお話を伺った。
前編では環境への取り組みを中心に伺ったが、後編では同社の社内や地域社会での取り組みについて専務取締役 林恭子氏にお話を伺った。
ひかり味噌󠄀株式会社は情報発信にも力を入れている。2019年から毎年発行しているサスティナビリティレポートはインフォグラフィックを用いながら、何を目的にどのようなことに取り組み、その進捗度合いを明瞭に伝える内容となっている。他社から参考にさせてほしいと相談を受けることもあるという。英語版も作成し、内容を進化させながら、国内外のステークホルダーに向けて発信している。

林氏は情報発信の役割は広報担当だけではない、と話す。営業も、人事も、財務も経理も全社員が理解して、一人ひとりが会社の代表として社外に伝えていくことが必要だと考えているからだ。そのために社内の知識を底上げすべく、サステナビリティに関するe-Learningを導入したり、社内報にてサステナビリティへの取り組みをテーマとした連載を掲載している。今後も、社員の学びや気づきの機会を創出していく。
海外への味噌󠄀輸出シェアNo.1を誇り、世界50ヶ国以上に味噌󠄀を輸出しているひかり味噌󠄀。グローバル事業は早くから展開しているが、「真のグローバル企業」に向けて一歩一歩進んでいる途中だと林氏は話す。目指しているのはオープンで一人ひとりがやりがいを感じながら働き続けられる環境だ。
「今期よりウェルビーイングの考え方を導入し、社員の健康・安全・働きがいを支える取り組みも強化していく計画です。社員がやりがいを持って業務でチャレンジしていくための『キャリアウェルビーイング』、自分の人生を豊かにするための資産形成をする『フィナンシャルウェルビーイング』など多角的に捉え、『ウェルビーイング』を綺麗な流行り言葉として語るのではなく施策に落とし込むことを目指しています。」
年々、関心が高まっている『ウェルビーイング』だが、人のサスティナビリティが企業の、そして社会のサスティナビリティにもつながってくる。資源枯渇や気候変動などの深刻な課題が増えていく現代社会において、「豊かさ」とは何なのかを問いかけ形にし続けることが、持続可能な社会の実現に近づくための一歩だと再認識できるのではないだろうか。
これまでひかり味噌󠄀株式会社の社内への取り組みについて伺ってきたが、地域社会に対する取り組みについてもご紹介したい。同社は工場のある長野県飯島町と「カーボンニュートラルに向けた連携協定」を締結している。味噌󠄀の製造などを行なっている飯島グリーン工場を中心にCO2排出量削減と再生可能エネルギー導入を進めていたが、今後は自治体とも連携していくことになる。
「地域に対して文化やレジャーの活性化をしたい」という思いから、本社を構える下諏訪町で夏合宿を行っている相撲部屋を後援するなど地域とのつながりを大切にし続けている。
そうした地域社会との関わり合いを今後は他の拠点でも行っていきたいと考え、東京でも取り組み始めているそうだ。

「飯島町と下諏訪町では以前から地域への貢献活動として、社員による味噌󠄀特別販売会や、諏訪湖での清掃活動などを行っていましたが、東京オフィスではそのような活動を行っていませんでした。オフィスがある文京区でも何かを還元していきたいと思い、朝のウォーキングをしながらゴミを拾うボランティア活動始めました。
私も散歩を兼ねて参加していますが、実際に始めてみるときれいに見えるオフィス近隣でも結構ゴミが落ちているんですよね。これを拾うのが気持ちいいんです。社員数名で始めていますが、強制参加ではなく、自主的に関わっている人自身が楽しめるWIN-WINな活動であることを尊重しています。」
「本当に環境に良いこととは何か」「ウェルビーイングとは何か」「地域社会への還元としてできることは何か」。問いかけ、取り組み続けるひかり味噌󠄀株式会社。最後に今後、どのようなことを目指していきたいと考えているのか、その想いを林氏に伺った。
「食の多様化が進み、一日三食食べない方や、味噌󠄀汁を飲まない人もいる。生活スタイルが変わる中で、味噌󠄀の価値を次世代に残していきたいですね。味噌󠄀はなぜいいのかというと、自然の恵みを余すことなく使いながら、発酵による滋養あふれるサステナブルな食品だから。捨てるところは一切ありません。素晴らしい食品です。
それを後世に残していくことは価値のあることだから、社員に対しても自分の仕事に誇りを持っていて欲しいですね。今春には、手軽にボトルからそのまま使える味噌󠄀を発売しました。ホームページやSNSでは、味噌󠄀を使ったさまざまなレシピや日本の食文化を紹介しています。これからも、現代のライフスタイルに寄り添う味噌󠄀の魅力を発信し続けていきたいと思っています。」
自然の恵みをいただくということは、食の原点であり、人の営みの原点でもある。その本質的な成り立ちも同社のサスティナビリティに対して真摯に向き合う姿に影響を与えているのではないだろうか。

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