
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。
「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。
8 Hachi Mediaの使命は、循環型経済に資する学びと楽しさを広げることである。このコラムでは、その一環として「サーキュラリティ(循環性)」が投資家にとってどのような意味を持つのか、さらには経済の動向を見守る人々にとってどのような価値があるのかを考察していく。
日本の循環経済全体についての包括的な分析は、すでに多くの研究論文などで取り上げられているため、本コラムでは特に今日的な意味を持つと筆者が考えるテーマに焦点を当てていく。
筆者はこれまで10年以上にわたり、ヨーロッパと日本を拠点にグローバル企業への投資に携わってきた。初回となる今回は、投資家であり外国人でもある立場から見た日本のサーキュラリティに関する所感を共有したい。
まず、多くの関係者が共感しやすい題材として「プラスチック」を取り上げたい。これを通して、日本における循環性の考え方や姿勢が垣間見える。
私たち消費者にとっても身近で、かつ課題として浮かび上がるのがプラスチックである。軽くて機能的なこの素材はあらゆる場面で使用されているが、多くがリサイクルされないまま廃棄されている。
外国人の視点から見ると、日本のプラスチックとの関係性には矛盾が見受けられる。たとえば、日本では家庭や企業に対して非常に厳格なごみ分別ルールが課されており、ヨーロッパの中でも最も厳しい国々と比べても遜色ない、いやそれ以上ともいえる。あまりの複雑さに、何が正しい処理方法なのか戸惑うほどである。
しかし一方で、日本は使い捨てプラスチックの消費量が世界的に見ても高い。食品の個別包装、飲料用ペットボトル、レジ袋の配布など、日常生活のなかに大量のプラスチックが存在している。
時間を少し遡ってみると、日本がサーキュラリティの概念を早くから取り入れてきたことに、筆者は驚かされた。近年はヨーロッパが循環経済のリーダーとして注目されているが、日本の取り組みはこの概念が広まる以前から始まっていたように思われる。
日本のアプローチは、地理的・資源的な制約から生まれた側面が大きい。天然資源が乏しく、土地にも限りがある島国という特性が、その発想の土壌となっている。
この歩みを象徴するいくつかの節目が存在する。その一つが1970年代のオイルショックである。エネルギー価格の高騰を受けて、日本は廃棄物からエネルギーを回収する技術開発に乗り出した。その結果生まれたのが「直接溶融システム」であり、現在でも効率性と柔軟性に優れた先進的な廃棄物エネルギー化技術として評価されている。
ただし、英語での情報開示が少ないこと、またこの技術を導入している企業が中小規模にとどまることから、多くの技術的な進歩が世界ではあまり知られていないのが現状である。
1999年に導入された「循環型社会形成推進基本法」とその後の法改正も、当時の経済的・環境的な危機を背景にしていた。自治体ごみの埋立地の残余年数が8.5年、産業廃棄物に至ってはわずか3年と逼迫しており、「リユース」や「リサイクル」を中心にした施策が進められた。その結果、最終処分場の寿命は大きく延びたのである。
とはいえ、最も大きな変化は外部からの衝撃によって生まれることがある。2017年、中国が紙とプラスチック廃棄物の輸入を禁止した際は、ヨーロッパ企業にとっても衝撃であったが、日本にとってはさらに深刻だった。というのも、日本は世界有数のプラスチック廃棄物輸出国であったからだ。
この輸入禁止措置により、国内のプラスチックごみが行き場を失い、政策の見直しが迫られた。日本はプラスチックのサプライチェーン全体を再検討し、排出抑制からリサイクルまでを包括的に見直す契機となった。
今日では、エアコンや洗濯機の重量の90%以上がリサイクルされているとされる。これは驚異的な成果である一方、筆者としては、なぜこの分野に大企業が少ないのか不思議でもある。
日本ではこの分野も例に漏れず、中小企業が主な担い手となっている。だが、資本集約型の産業であるがゆえに、効率性を高めるには規模の経済が不可欠であり、それが実現できていないのが実情である。
さらに歴史をさかのぼると、日本には「循環」という言葉が生まれる以前から、今の概念に近い思想が存在していた。その一つが江戸時代(1603〜1867)に生まれた「三方よし」の精神である。
「三方よし」とは、売り手・買い手・世間(社会)の三方すべてにとって良い商売を目指すという考え方であり、ビジネスは社会全体の調和を目指すべきだという思想が込められている。
最近では、日本企業の経営陣との対話の中でも、この精神を現代的に解釈した考え方にたびたび触れる。形を変えながらも、この「多様な関係者とのバランス」を重視する姿勢は、今も日本企業の文化に根付いているように感じる。
経営者との対話では、法的アプローチにおいても日本の特徴が見えてきた。日本では法律や規制だけでなく、ガイドラインや同業者間の圧力といった「ソフトロー(柔らかい法)」の活用が一般的であり、これは多くの外国人にとっては意外に映るかもしれない。
だが、日本ではこうしたやり方が効果を上げている場面が少なくない。特に経済産業省(METI)は、厳格な規制を設けるのではなく、企業の自主的な取り組みを促すアプローチを取っている。
この手法は規制が未熟であることを示すのではなく、企業の自主性や専門性を尊重しつつ変化を促す方針の表れである。
筆者は過去10年にわたってこのアプローチを他の分野でも観察してきた。たとえば、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の分野では、この「ソフトロー」が非常に効果を上げている。
企業統治コードなどのフレームワークに基づく自主的な取り組みが進んだことで、企業と投資家の対話もより建設的なものとなってきている。この点については、今後のコラムでより詳しく取り上げる予定である。
サーキュラリティは、消費者にとって即時的な恩恵をもたらすものではない。そのためには、別の動機づけが必要となる。政府の補助金やインセンティブは一定の効果を持つものの、範囲や期間が限られているため、単独では十分とはいえない。
このような移行期において、消費者とともに変化を主導できる存在として最も有望なのが、新しい価値観を積極的に取り入れる企業である。日本には、利害関係者とのバランスを保ちつつ、長期的視点を持つ企業が多数存在していることは、大きな強みといえるだろう。
次回のコラムでは、家族経営企業がどのようにサーキュラリティを事業の中核に据えているかを掘り下げ、その長期的なビジョンとのつながりを紹介する予定である。
次回の記事
writer |
Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。
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