
「疲れたな」と感じた時、心を落ち着かせてくれる方法は何ですか?たくさんの情報が溢れ、目まぐるしい変化が起きている今の社会。どうしたら心を楽にできるのか。この連載では心理学者・臨床心理士の黒川由紀子さんに「マインドフルネス」を軸に、心を豊かにするためのヒントをご紹介いただきます。
仏教学者のリース・デイヴィッド(*1)は、1881年に、パーリ語のサティ(sati)(*2)をマインドフルネスと訳しました。それから約150年経ち、世界中でマインドフルネスが注目されるようになりました。アメリカで、心の病に対するエビデンスのある治療法として認められたことから、医療の場でも脚光を浴びるようになり、病院でストレスやうつの再発予防等の治療として行われています。高齢社会では、認知症の家族介護者の心を楽にするために行われることもあります。
仏教の修行として行われていたマインドフルネスは、仏教の枠を超えて、家庭、学校、企業をはじめ、あらゆるシーンで応用されるようになりました。
マインドフルネスとは、なんでしょうか。
マインドフルネスの定義は、「今、この瞬間に、意図的に、評価も判断もすることなく、注意を向けること(ジョン・カバット・ジン(*3))」です。大事なのは過去でも未来でもなく、「今」です。過去を悔んだり、未来を憂えたりするのはいったん止める。そして、「今、この瞬間」に注意を集中します。人のストレスの元は、「過去」「未来」にこだわることによって強まります。マインドフルネスでは、「今」に注意を集中させて、焦らずに新鮮な気持ちでいること、自分やまわりを信頼すること、頑張りすぎないで受け入れることを大切にします。
マインドフルネスは、心を健康に保つための方法とも言えます。人間の外面ではなく内面にフォーカスします。一般に、社会では1カ月の売り上げ、番組の視聴率、イベントの動員人数が問われることがあります。未来の企画がうまく立ち上げられないことから落ち込む人も多いでしょう。マインドフルネスでは、短期的な成果をめざさず、永く続く価値を追求します。他人との競争にあくせくせず、自分と深くゆっくり向き合う練習をします。
このシリーズでは、マインドフルネスを軸に、心に栄養を与え、日々のとらわれから解放されるための考え方や具体的な方法をご紹介していきます。
マインドフルになるおすすめスポット
朝の赤坂氷川神社の大銀杏下、樹齢300年の木の前にたたずめば、鳥、虫、植物が積み重ねてきた時の移ろいを感じるでしょう。

Illustration | Zelenak Sandor
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*1 リース・デイヴィッド(Thomas William Rhys Davids ):イギリスの東洋学者、仏教学者。パーリ語と上座部仏教の研究で知られる。
*2 サティ(sati):特定の物事を心に(常に)留めておくこと。
*3 ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn):マサチューセッツ大学医学大学院教授・同大マインドフルネスセンターの創設所長。国際観音禅院の崇山行願に禅を師事し、ケンブリッジ禅センターの創設メンバーとなる。仏教の指導者に修行法と教理を学び、西洋科学と統合。マインドフルネスの考え方の礎となるマインドフルネスストレス低減法 を開発・実践した。
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黒川 由紀子

心理学者、臨床心理士。上智大学名誉教授、黒川由紀子老年学研究所所長。特に高齢者の心理臨床を専門とする。これまで医療機関や福祉施設等で認知症の人への心理療法を専門職やボランティアと共に行ってきた。現在回想法グループ、自分史年表講座、マインドフルネスの会、歌・音楽を楽しむ会等を運営している。年を重ねる豊かさを多世代で共有できたらよいと考えている。
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