
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。
「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。
前回のコラムでは建設業界を取り上げたが、今回は循環型経済の推進において重要な役割を担うもうひとつの分野、エネルギー、特に発電に注目したい。
日本をはじめ多くのヨーロッパ諸国では、天然資源が乏しいことから、比較的早くから「循環」の発想が根づいてきた。とはいえ、ここ数年は、再生可能エネルギー、特に太陽光や風力の普及を背景に、こうした動きが急速に加速している。
まずは、現在のエネルギーを取り巻く状況を整理しながら、なぜ循環性がこれほど注目されるようになったのかを見ていこう。
今のエネルギーを取り巻く環境は、経済や地政学、社会の変化によって大きく形づくられており、その中で循環性の重要性が一段と高まっている。かつては価格の安さと供給余力の大きさから、エネルギーは優先度の低いテーマとされていた。しかし現在では、資源価格の上昇、サプライチェーンの混乱、地政学リスクの顕在化といった背景から、エネルギーの「安さ」と「安定供給」が再び大きな課題となっている。
その一方で、電気自動車やデータセンターといった新たな分野からの電力需要が急増している。特にデータセンターは、2030年までに世界全体の電力消費量が倍増し、約945テラワット時(TWh)に達すると予測されており、これは日本の現在の年間消費量とほぼ同等である。AI技術の進化がこうした動きをさらに加速させており、世界のエネルギーインフラにこれまでにないプレッシャーがかかっている。
加えて、日本や欧州のようにエネルギーの多くを海外に依存する国々では、「エネルギーの自立性」や「安全保障」が最優先事項となっている。保護主義的な政策の拡大や供給途絶のリスクを背景に、強靭で自給自足可能なエネルギー体制の構築が求められている。
同時に、多くの国が脱炭素の長期目標を掲げ、今後20〜30年で温室効果ガスの実質排出ゼロ(ネットゼロ)を目指している。これらを達成するには、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が不可欠であり、それ自体が有限資源への依存を減らすという意味で、循環性の強化にもつながっている。
再生可能エネルギーは現在、世界各地で最もコスト効率の良い発電手段となりつつある。太陽光や風力発電の新規プロジェクトは、多くの市場において化石燃料を使った発電よりも競争力を持っている。
この急成長の背景には、技術革新の加速やスケールメリットの拡大、そして社会からの強い支持がある。過去20年の間に再エネのコストは大幅に下がり、一般的には50〜70%、中には90%以上も低下した例もある。
もともと、水力発電は最も早く実用化された再生可能エネルギーであり、長年にわたって多くの国々の電力供給を支えてきた。欧州ではノルウェーやアイスランド、オーストリア、スイス、スウェーデンなどが今でも電力の半分以上を水力に頼っている。しかし、日本や欧州ではすでに多くの適地が開発され尽くしており、水力による拡大余地は限定的だ。
そのため、今後の再エネの主役は、太陽光と風力になる。既存設備のアップグレードや効率改善、新たな洋上風力発電の開発などが、今後の成長を牽引していく。
近年、再エネの拡大を後押ししているのは、政府だけではない。2010年代初頭の公的支援を経て、現在では大手企業、特に電力需要の大きいテクノロジー企業が主導的な役割を果たしている。
これらの企業は、特定の風力・太陽光発電所の発電量をすべて買い取るような大型契約を結ぶことも多い。その代表的な手法が「電力購入契約(PPA)」である。PPAは通常10〜20年という長期契約で、企業が特定の再エネ発電所から直接電力を購入することを約束するものだ。
この仕組みは双方にとってメリットが大きい。発電事業者は安定した収入を得られ、金融機関からの資金調達も容易になる。一方の企業側は、電力価格の安定化や、再エネの「見える化(トレーサビリティ)」による環境価値の確保ができる。
現在、多くの国では再エネに対する補助金が縮小あるいは終了しつつある中、PPAは民間主導での投資を促進する実効性の高い手段として、ますます重要性を増している。
原子力発電については、賛否が大きく分かれる。ただし、脱炭素化を目指すうえで、その存在を無視することはできない。支持する側は、化石燃料に乏しい国にとってエネルギー自立を可能にする手段であり、炭素を出さずに安定供給ができる唯一の「ベースロード電源」として評価する。一方で、反対派は安全性や、放射性廃棄物の長期的管理といった課題を指摘する。
欧州でも立場は分かれており、ドイツは原発の段階的廃止を進める一方、フランスは新設計画を進めている。日本でも、福島第一原発事故以降に停止した原発の再稼働が進んでいるが、2025年3月時点で19基は再稼働していない。
とはいえ、温室効果ガスの大幅削減と安定した電力供給を両立させる手段として、原子力が唯一の現実的選択肢である国も多い。既存の原子炉は運転コストが安定して低く、多くの国がその運転期間の延長や新設に再び関心を寄せている。
ただし、新たな原子力開発には課題も多い。1960~70年代の原発建設ブーム以来、厳格化された安全基準や度重なる建設費の超過により、先進国では建設事例が限られている。その一方で、「小型モジュール炉(SMR)」といった新技術も登場しており、出力300MW以下という柔軟な規模感から、コスト面や導入スピードの面で期待が集まっている。
次回は、再生可能エネルギーへの移行を行なっていく上で、生じていく課題を多角的に取り上げ、解決に向けた可能性について考察していく。
次回の記事
前回の記事
writer |
Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。
ー シリーズ別に探す ー