Hachi Medida

循環性 × 日本の建設業界 Part.2

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「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。

「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。


Part1では建設業界における資源循環の重要性と、その実現に向けた課題・取り組み・木材を活用した建築の可能性について言及した。Part2では建設分野におけるイノベーションの進展と、その実現に向けた様々な取り組みをご紹介していこう。

建設分野におけるイノベーションの進展とその背景

長年にわたって数多くの工学的成果を生み出してきた建設業界だが、現代においては依然として「ローテク産業」と見なされることが少なくない。規制の厳しさがその一因であるが、試行錯誤の機会が乏しいことも、イノベーションの促進を妨げる要因となっている。

建設中や完成後の変更には多くの手間と費用がかかるため、実験的な取り組みは敬遠されがちである。こうした慎重な姿勢は一概に悪いとは言えないが、新しい技術の導入が遅れる原因になっており、詳細な分析に必要なデータもなかなか蓄積されにくい。そのため、「建物がどれだけ循環的であるか」を正確に測定することは、今なお難しい課題となっている。

また、建設には多額の初期投資が伴うことから、所有者側も新技術の採用には慎重にならざるを得ない。誤った選択が大きな資産価値の毀損につながるためである。このため、建設会社は新技術を外部顧客に提供する前に、自社プロジェクトでテストする必要がある場合が多い。

短い建物寿命がもたらす日本独自の好条件

一見すると逆説的に思えるかもしれないが、日本の建物寿命が比較的短いという特徴は、建設分野における循環的イノベーションの実証にとって理想的な環境を提供している。

こうした背景のもと、日本のいくつかの企業は、住宅の建て方そのものを見直すことで、先述の課題に対応してきた。特に欧州との大きな違いは、低層住宅(一〜二階建て)においてプレハブ部材の活用が広く浸透している点である。

欧州では、プレハブ住宅は品質が低く耐用年数も短いというイメージが根強いが、日本では数十年にわたる改良の積み重ねにより、伝統的な建て方と同等かそれ以上の品質を実現している。完成後は、プレハブ住宅か在来工法かを判別するのは困難なほどである。カスタマイズの選択肢はやや限られるものの(数百通りが一般的)、多くの購入者にとっては許容可能なトレードオフとなっている。近年では、日本の住宅メーカーが欧州にも進出し、高品質かつコスト効率の高い住宅ソリューションの展開を進めている。

積水ハウス、積水化学、大和ハウス、パナホームといった日本の住宅メーカーは、プレハブ住宅に特化、あるいは一部に採用することで、大幅なコスト削減を実現している。また、建設業界全体が抱える深刻な人手不足の課題にも対応している。

モジュール建設は、建築工程の多くを工場内の管理された環境下で進められるため、熟練労働者の不足や高齢化の影響を軽減できる。加えて、自動化やロボットの活用によって生産効率のさらなる向上も可能となる。

筆者が積水化学との対話で得た話によれば、住宅全体の80%が工場で製造可能であり、これにより施工期間は従来の住宅で約1年かかっていたものが、わずか数ヶ月に短縮される。特に都市部のように、調達や現場施工の難易度が高い場所では、このスピード感が大きな価値をもたらす。

コンクリートとその脱炭素化への挑戦

建設業における温室効果ガス排出の主因のひとつが、コンクリートの生産である。セメントはコンクリートの構成比では10〜15%程度に過ぎないが、排出されるCO₂の大部分はこのセメント由来である。なかでもクリンカーと呼ばれる主成分は、石灰石と粘土を最大1,450℃で焼成する必要があり、製造時の炭素排出量が極めて大きい。

この排出量を抑えるためには、フライアッシュ(石炭灰)、高炉スラグ、焼成粘土など、より低炭素な代替素材でクリンカーを一部置き換える方法が注目されている。たとえば、大成建設の開発したT-eConcrete®は、セメントの使用量を削減しながらも、通常のコンクリートと同等の強度と作業性を確保しており、CO₂排出削減にも貢献している。とはいえ、これらの代替素材は凝結時間や強度に影響を及ぼすため、施工現場では温度や湿度の管理が難しく、品質を安定させるうえで課題も多い。

中高層木造建築の可能性とハイブリッド構造

木材は従来、主に低層建築に用いられてきたが、技術の進歩により、最近では中高層の建物にも木材を全面的、あるいは部分的に使用することが可能になってきている。その代表例が、横浜にある大林組による11階建て・高さ44メートルの建物である。地上部の柱・梁・床・壁すべてが木材で構成されている。

ただし、高層化に伴い、調達や耐火構造といった課題に加え、地震や災害リスクに応じた構造上の工夫が求められる。特に柱や梁に必要な強度を満たす木材が限られており、日本の森林で最も多く分布する杉(スギ)は十分な強度を持たない。そのため、北海道などに多く見られるカラマツなどの松系の樹種がより適している。杉などの柔らかい木材については、CLT(Cross Laminated Timber)といった加工技術によって強度を高める必要がある。

完全に木材のみで構成することが難しい場合には、RC構造とのハイブリッド型が現実的な選択肢となる。たとえば、タマディック名古屋ビルでは、CLTパネルで囲った空間にコンクリートを流し込む構造を採用しており、鉛直荷重をコンクリートが支え、木材が水平力に耐える設計になっている。

清水建設は「Hy-wood」と呼ばれるハイブリッド木造技術を展開しており、耐震性・耐火性・施工効率・コストのバランスを取るために、建物内の戦略的な位置に木材を使用している。

伝統技術と現代建築の融合

最近の動きとして注目されるのが、日本の伝統的な建築技術を現代建築に取り入れる取り組みである。

たとえば、寺社や町家などの伝統的な木造建築では、釘を使わず「接ぎ手(つぎて)」や「仕口(しぐち)」といった仕口技術で部材を組み合わせてきた。これにより、解体・修理・再構築が容易となり、「循環型」の思想がまだ言語化されていなかった時代から、その実践がなされていたといえる。

同様に、竹、和紙、漆喰、藁といった自然素材の使用は、土に還る性質を持ち、リサイクルや再利用との親和性が高い。畳や襖、障子といった建具も、空間の柔軟性を高める工夫として機能しており、用途に応じた再構成が可能である。

こうした思想を現代の再構築可能な建築に応用する動きも出てきており、大林組では「GIRジョイント(接着棒)」と「貫(ぬき)」という伝統的技術を組み合わせた新たな構造方式を採用している。これは、古来の木造技術と最新工学を融合させた先進的な取り組みである。

建築に求められる新たな評価基準

今後、建築プロジェクトにおいては、次のような観点が重要な選定・最適化の軸となっていくだろう。

  • 耐久性(Durability)

  • リサイクル可能性(Recyclability)

  • 再利用性(Reusability)

  • モジュール性(Modularity)

  • 低炭素化(Low embodied carbon)

これらは、長く評価されてきたものもあれば、最近重視され始めた要素も含まれる。いずれにしても、建築の循環性を支える重要な指標として今後のスタンダードとなっていくはずである。

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Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。

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