
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。
「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。
今回のコラムから数回にわたり、資源や原材料の消費量が多く、循環性が特に重要とされる産業を取り上げていく。ここでは、建設業界を取り上げる。
この分野における循環性とは、建設廃棄物の削減、環境負荷の低減、そして建物のライフサイクル全体を通じた資源の有効活用を指すのが一般的である。
資源の使用量を抑える取り組みは、以前から重要課題とされており、関係者によって最適化のためのさまざまな対策が講じられてきた。しかしながら、「建物の再利用」という観点では依然として事例は限られており、解体時に発生する廃材のリサイクル率も低いのが現状である。
日本の建設業界は、再建のスピードの早さという点で、非常に興味深い事例といえる。欧州では、住宅や非住宅の建物が何世紀にもわたり使われ、定期的に改修されているのに対し、日本では建物の寿命が30〜40年程度とかなり短い。
この背景にはいくつかの要因がある。たとえば、地震などの自然災害を見越した法規制、住まいは「新築」が好ましいとする文化的傾向、そして建物の償却が早く、解体に対して税制上の優遇措置があるといった経済的インセンティブが挙げられる。
その結果、日本ではアメリカの3分の1の人口でありながら、年間の住宅建設数はアメリカとほぼ同じという状況になっている。
この分野が直面している主な課題は以下の3つに整理できる。
経済的制約
建設プロジェクトのコストは高く、利益率は低い。そのため、高価な新素材や技術を試す余地は限られており、結果として実証されていない新技術の導入は敬遠されがちである。
リサイクル率の低さ
特に建物の解体時に出る廃材については、老朽化した部材や複合素材の使用、建物ごとの非標準化といった要因により、分別・再利用が困難である。
技術革新のスピードが遅い
建設業界は他の業種と比べて技術導入のサイクルが長く、最終顧客も新技術に慎重な傾向が強いため、変革のスピードが上がりにくい。
こうした課題に対して、業界ではいくつかの取り組みが始まっている。
まず、建設中に発生する廃材については、日本の大手ゼネコンが90%以上という高いリサイクル率を実現している。これは長年にわたる改善の積み重ね、協力会社との連携、そして現場での徹底した分別努力による成果である。
たとえば鹿島建設では、現場で使用した石膏ボードをメーカーの工場へ戻し、紙と石膏粉に分けて再資源化している。紙は段ボールなどの製品に、石膏粉は再び石膏ボードの原料として活用されている。こうした「水平リサイクル」は、資源循環型社会の実現において重要な取り組みである。
一方で、解体時の廃材については依然として大きな課題が残る。素材の混合や老朽化などにより、再資源化の前に分別処理が必要であり、その手間が障壁となっている。たとえば、コンクリートがらを道路の路盤材に再利用するような事例も出てきてはいるが、業界全体ではまだ発展途上の段階にある。
建物自体を取り壊さず、用途変更によって再利用するという考え方もある。しかし、実際には日本に限らず世界的にもこの方法は難しく、歴史的価値のある建物などに限って適用されることが多い。
この課題に対処する一案として、「設計段階から多用途への対応力を持たせる」という考え方がある。いわば、モジュール構造による柔軟性を確保するというものだ。しかし現実には、コストがかさむ上に短期的な収益性が見えにくく、広く採用されているとは言いがたい。再利用やリサイクルがしやすい素材として、木材に注目が集まっている。もちろん木材にも課題はあるが、他の建材と比べて循環性を高めやすいという利点がある。
日本は森林大国であり、国土の68.4%が森林に覆われている。この比率はフィンランドに次ぎ、スウェーデンと並ぶ水準である。しかしながら、国産材の活用は進んでおらず、現在も6割以上を輸入に依存しているのが実情だ。2020年には「ウッドショック」と呼ばれる世界的な供給不足と価格高騰が発生し、国産材の活用を進める必要性が改めて認識された。
日本の森林は大きく2つに分類される。ひとつは生態系保護や土砂災害防止を目的とした「保全林」、もうひとつは伐採と植林を繰り返しながら木材供給を行う「利用林」である。
たとえば住友林業は、大手住宅メーカーであると同時に森林保有者でもあり、毎年2%の利用林を計画的に伐採・植林する体制を取っている。このサイクルはおおむね50年の成長期間を想定しており、木材の品質とCO₂吸収量の観点で最適とされる。とはいえ、日本全体では人手不足により再植林が十分に進んでいない。
こうした状況を踏まえ、住友林業は2023年に初の「森林ファンド」を創設。投資を通じて森林を取得・管理し、持続可能な木材生産を推進している。経済的リターンと環境的価値の両立を図り、2030年までに森林管理面積を3倍にすることを目指している。
また竹中工務店は、創業家による経営を今なお続けており、「フォレスト・グランドサイクル」という構想のもと、中高層木造建築の都市部展開を積極的に進めている。都市部における木造建築の普及だけでなく、地方の森林管理という社会課題の解決も視野に入れている。
森林再生は、効果が見えるまでに30年以上かかる取り組みであり、長期的な視点が欠かせない。しかし、たとえばスウェーデンのように成功事例も存在する。スウェーデンでは国土の70%が森林であり、その7割が人の手で管理されている。約100年前、過剰伐採により森林減少が深刻化したことをきっかけに、「1本伐れば2本植える」という法律が制定された。現在では「1本伐れば4本植える」ことが原則となっており、持続可能な森林管理の好例となっている。
次回、Part2では建設分野におけるイノベーションの進展と、その実現に向けた様々な取り組みをご紹介する。
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writer |
Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。
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