
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は単なる環境規制ではなく、経済の仕組みそのものを変える政策として各国で推進されている。その中で、日本はどうなっているのだろうか。投資家などのように経済の動向や変化を注視する人々からは、どのように見えているのだろうか。
「Talk Circular × Economy」では、注目が高まっているトピックを中心に、グローバル企業への投資に10年以上関わり、ヨーロッパと日本を行き来してきたアシル・アンドレ=ホッティンガー氏の投資家として、また外国人としてのバックグラウンドを活かしたユニークな視点で見解を述べていく。その「捉え方」を楽しみながら「循環×経済」を探訪しよう。
Part 1では循環型経済の実現に向けて、発電を中心としたエネルギー分野における再生可能エネルギーの拡大、電力の安定供給、企業の役割、新技術の導入などについて述べてきた。Part 2では中期的に循環性を高めるために重要な鍵を握る再生可能エネルギーと近代化された送電インフラについて考えていく。
これまで多くの国が、化石燃料の消費削減に向けてまず取り組んできたのは「効率の向上」だった。つまり、同じ燃料からより多くのエネルギーを得るという発想である。こうした改善は時間のかかる取り組みであり、通常は数十年単位で数ポイントずつ進んでいく。現在、石炭、天然ガス、石油といった化石燃料による発電の世界平均効率はおよそ35〜40%とされている。数字としては低く見えるかもしれないが、燃焼や発電のプロセスが極めて複雑であることを踏まえると、これは現実的な水準である。
一方で、循環性をより高めるうえでは、再生可能エネルギーの導入拡大の方が効果が大きい。化石燃料への依存をそもそもなくす方向に向かうからだ。日本はすでに太陽光発電で大きな進展を遂げているが、国土面積の制約を踏まえると、さらなる選択肢の模索が重要となっている。とくに将来の主力となりうるのが、風力発電と地熱発電である。
日本では陸上風力の導入も進んでいるが、大規模展開には土地の制約がつきまとう。一方で、日本の長い海岸線には大きな可能性があり、とくに海が深く固定式の風車が設置しづらい地形が多いため、「浮体式洋上風力」が大規模な導入に向けた有力な選択肢となっている。
浮体式風力はまだ完全に商業化されているわけではないが、日本では研究開発に多くの投資が行われている。経済産業省(METI)はその将来性を見込み、排他的経済水域(EEZ)での風力発電を可能にする法整備を進めており、領海内に限られていたこれまでの制約を大きく超える展開が可能となっている。三菱総合研究所の試算によれば、日本の浮体式洋上風力のポテンシャルは2,000GWを超え、そのうち300GW以上が低コスト導入可能とされている。
技術や制度はまだ発展途上であるものの、これらの動きにより、日本は浮体式洋上風力の分野で世界的な先進国となる可能性を秘めており、同時に脱炭素とエネルギー安全保障の両立にも資する動きである。
地熱発電もまた、有望な再エネ技術のひとつとされている。燃料に依存せず、安定的な電力供給が可能である点が特長だ。アイスランドのように電力と熱供給の大部分を地熱でまかなっている国もあるが、日本における地熱発電の導入量は依然として低く、全体の発電量の0.5%未満にとどまっている。
普及が進まない背景には、初期コストの高さや開発リスクに加え、多くの地熱資源が国立公園など保護地域内にあるという規制上の問題もある。また、観光資源として地域経済に不可欠な温泉の枯渇や変質を懸念する地元住民や温泉事業者の反対も少なくない。
それでも、技術の進展を背景に前向きな兆しも見え始めている。2025年4月には、経済産業省が次世代地熱の可能性を探る産官連携の新しい協議会を設立し、すでに国内の地熱発電ポテンシャルがこれまでの推計23GWから最大77GWに引き上げられる可能性があると指摘している。
再エネの導入を拡大し、エネルギー全体の効率を高めるうえで不可欠なのが、電力系統と送電インフラの近代化である。これには主に2つの目的がある。
1つ目は、電力を効率的に需要地へ届けること。再エネの多くは、風況や日照に恵まれた遠隔地で発電されるため、そうした電力を都市部などの需要地へスムーズに送る必要がある。再エネは出力が不安定で制御が難しいという特性があるため、地域間のバランスを保つためにも、強靭な送電網が不可欠である。
2つ目は、送電時のエネルギーロスの最小化だ。従来の交流(AC)システムでは、長距離送電において10%以上のロスが発生することもある。これに対し、高電圧直流送電(HVDC)は、1,000kmあたりのロスを3〜4%に抑えることができ、100km以上の距離ではACより効率的となる。
こうした送電インフラの強化は、日本と欧州の共通課題であるが、日本にはもうひとつ特有の障壁がある。それは東西で周波数が異なるという「50Hz・60Hz問題」だ。この分断は19世紀末、東京がドイツ製発電機(50Hz)を、大阪が米国製(60Hz)を導入したことに起因しており、現在も東日本と西日本では電力の融通が限られている。実際、東日本大震災時にはこの周波数の違いが電力の供給制約として顕在化した。
今後の主な課題としては、政治的な不確実性、コスト上昇、そして再エネ設備のリサイクル対応が挙げられる。
エネルギー政策の不透明さは以前は欧州特有の問題とされていたが、近年ではアメリカにも波及している。税制優遇の変更や政権による再エネ支援の不安定さが、大型プロジェクトの中止や縮小につながっている。再エネは長期的な投資を要する分野であり、計画期間は10~20年に及ぶことが多い。そうした中で政策が不安定であれば、投資家や事業者は判断を下しづらくなり、見通しの不確実性がリターンの要求水準を引き上げ、資金調達を難しくする。
特に先進国では政府債務の水準が過去最高に達しており、エネルギー転換の資金をすべて公的にまかなうのは困難である。このため、新規の発電投資は民間資本に大きく依存せざるを得ない。加えて、近年の再エネ分野では、建設コストや調達コストの上昇、サプライチェーンの混乱が重なり、多くのプロジェクトで中止や減損が発生している。入札時にコスト低下を前提とした過度に楽観的な見積もりが裏目に出た形である。
これに対し、各国政府も対応を始めている。たとえば日本では、三菱商事などの大手事業者が、FIT(固定価格買取制度)下で落札した案件について、コスト増に耐えられず条件の見直しを政府に求めている。こうした課題を受け、経産省は洋上風力の入札制度の見直しを進めており、一部では過去の契約にも遡及的に対応が適用されている。
また、再エネ設備の耐用年数が従来の火力発電よりも短いことも課題である。今後数十年で、膨大な数の太陽光パネルや風力タービンが使用期限を迎えることが予想されており、再利用やリファービッシュ、リサイクルといった循環的処理の仕組み整備が急務となっている。
蓄電池にも同様の課題がある。技術は進化しているものの、製品設計においては耐久性やリサイクル性が後回しにされがちで、リチウムイオン電池のリサイクル率は依然として低いままである。資源の無駄や環境リスクが懸念されている。
さらに、原子力発電でさえ、使用後の対応という面では循環性の課題を抱えている。原発の廃炉は時間も手間もかかるプロセスであり、世界的にも実績は少ない。すぐに解体する場合でも5~10年かかり、放射線の自然減衰を待ってから進める場合は50年近くかかることもある。
こうした事例は、あらゆるエネルギーインフラにおいて、「使い終わり」までを見据えた設計と循環的管理が必要であることを示している。
これらの課題が一時的なものである可能性は高く、過去数十年で見ても、エネルギー転換は確実に進展してきた。いくつかの後退や停滞があるとしても、全体としては前向きな流れが続いている。
心強いのは、再エネに関する取り組みが、かつてよりも政府補助に依存せず、民間主導で進められるようになってきたことである。
今後、脱炭素をさらに加速するうえで、政治のリーダーシップが問われる場面も増えるだろう。特に、新技術への支援や導入スピードにおいて、政策が果たす役割はますます重要になっていくだろう。
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writer |
Mr. Andre-Hottinguer

アシル・アンドレイ-ホッティンガー は、過去10年間にわたり大規模な機関投資家向けに公共株式ポートフォリオを管理してきたグローバルエクイティ投資家です。2013年から2020年まで、彼は欧州最大の資産運用会社であるアムンディでシニアポートフォリオマネージャーとして勤務し、高い信念に基づくグローバルエクイティプロセスを開発しました。2018年には東京に移住し、グローバルおよびアジアの株式チームのために、日本およびアジア企業に焦点を当てました。
アシルは、パリのHECでファイナンスを専攻し、経営学の修士号を取得しました。2022年には、フランスにおける40歳未満の才能と将来の経済リーダーを集めた「ショワゾル100」ランキングに選出されました。
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