
ー 天球観測のはじめかた ー 大きくやわらかく世界を知覚することで、人間中心主義の現代社会を脱しおおらかに生きることを編み直せないだろうか。多視点、非人間、プラネタリー……社会の見え方を揺らす現代アートとともに、世界認識の体系化を試みる連載コラム。 vol.13は田尾氏がゲストキュレーターとして参加した10月4日〜19日に開催されたアートイベント「Kunitachi Art Center 2025」について。住んでいる町で行われたからこそ感じられた一面とは。
アートイベント「Kunitachi Art Center 2025」が10月4日〜19日に開催された。武蔵野美術大学が近いせいか、国立は町のサイズに対してギャラリーが多い。それらをつないで町全体のアートイベントとしよう、というのが「Kunitachi Art Center」だ。毎年開催されてきて今年は6回目を迎えるが、ぼくは今回ゲストキュレーターというかたちで参加することになり、その一環として山梨県河口湖を拠点に活動するアート・コレクティブ・6okkenをキュレーションした。
6okkenは、木材でできた数種類のボックスやスーツケース、看板を組み合わせた《i’m-air-port》というインスタレーションを、国立駅南口駅前広場の東側に展開した。彼らはそれをアートともプロダクトとも呼ばず、そのあいだの“オブジェクト”──つまり意義の空洞化した“物体”とした。これがアート作品でない以上、そこに関わる人は(受動的にアート作品を見る)“鑑賞者”にとどまらない。会期中、例えばそこにはリモートワークをするビジネスマンやおしゃべりをする女子高生、物珍しげに群がる小学生といった、色々な人がそのオブジェクトにエンカウント(遭遇)することとなり、向き合い方(認識の仕方)と関わり方(用い方)を自律的に定義していった。

Photo : Chiharu Saito
“オブジェクト”という態度にみられる意義の空洞化は、それを埋め合わせようとする人々の想像を誘発し、行動を促し、さらには解釈を生む。会期中、オブジェクトの脇にお供え台を設置し、お月見会をする人たちがいたり(その夜は満月だった)、またオブジェクトを動かしてテーブルと椅子にし、宴席をする人たちがいたりした。発展的に解釈し“オブジェクト”の価値をクリエイトしていくこうした事例は、キュレーターとして特に嬉しく感じられた。
ひとつ、前向きな批評として課題を挙げるならば、エンカウントした人たちの態度の多くは、それを“座るためのもの”と捉えることを起点にするケースが多かったことだ。物理的な形状が四角い箱型で椅子に似ていたのでそれは当然のことであるが、より創造的な解釈を誘起する仕掛けがあると、さらにこの“オブジェクト”はふくよかな意味を伴ってくると期待している。
例えば、この“オブジェクト”はタイトルにある通り“airport[空港]”のイメージも重ねられているが、その受け止めを起点にするワークショップ?イベント?造作?の関わり方も設計できたら面白いかもしれない。自省として、備忘に記載する。

会期中には、6okkenのひとり・山口みいなによる小学生向けのワークショップが行われ、全身を使って大きな紙に線を引き色を塗っていった。そこにはぼくの子供やその同級生、ママ友も参加したのだが、子供たちがいつもとちがうお絵描きを楽しむ顔、それを見てまた喜ぶ親たちの顔を見ることができた。

Photo : Chiharu Saito
これまで日本各地のアートプロジェクトに関わってきたが、遠方だとどうしても設営や初日、撤去のタイミングなどにしか立ち会うことができなかった。しかし住んでいる町で行われたこのプロジェクトでは、会期中のあいだもじっくりと伴走することができた。先に挙げたようなオブジェクトと市民との多様な関わり方を見ることができたのも、また何より自分自身もリモートワークをしたり缶ビールを飲んだり夕陽を座って眺めたりしながら、「駅前の空ってこんなに広かったんだな」と等身大の気づきを得ることができたのも、何度も“オブジェクト”を訪れることができたからだ。
抽象的なことばや専門的で小難しいことではない、見知った人たちが喜んでいる姿や見慣れた景色の新たな気づきに、いままでに感じたことのない充足感を感じてしまった。これまで企画書に大仰な未来を描きさもありなんとプレゼンをしてきたが、それは、こういう何でもなくて手触りのある、小さな小さな日常の異化から始まっていくものだったのかもしれない。
天球観測に区切りをつけ望遠鏡から眼をはなしたとき、足元には見飽きてでもあたたかな発見が散見していた。
次回の記事
前回の記事
writer |
田尾 圭一郎

「田尾企画 編集室」代表、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス 特別招聘准教授。アートの企画・編集・コンサルティング/2006年、国際基督教大学卒業。博報堂を経たのち、美術出版社「美術手帖」ユニットにて企業や自治体とのアートプロジェクトの企画、地域芸術祭の広報支援、雑誌・書籍の編集、展示企画などに携わる。
ー シリーズ別に探す ー