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雪解け山の喫茶店

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長野県信濃町。動物や虫など、その地に棲まう「小さきもの」にまなざしを向けながら、人の暮らしと重ねて句を読んだ小林一茶が生まれた土地でもあります。東京から信濃町に移り住んだ8 Hachi Media編集長のぶさん。この町にすまう命と人のくらしを季節の巡りとともにお伝えします。


信濃町のハイシーズンはいつなのか。この問いに対する答えは人によって異なるが「冬」と思っている人も少なくない。

特別豪雪地帯のため雪が多く、固めることができないほどさらさらなパウダースノーに魅了され、多くの人がウィンタースポーツを満喫するために訪れるからだ。中にはそれが移住の理由という人もいる。1,2ヶ月長期滞在する人も多い。冬の信濃町は県内外から多くの人で賑わっている。

4月近くになると営業を終えるスキー場も出てくるが、山の積雪量はまだまだ多い。今日はそんなシーズン終わりの雪山をのぶさんと楽しむことになった。ガイドしてくださるインストラクターさんは同じ移住者で、ウィンタースポーツが好きで移住されたそうだ。登る山は斑尾山の北側にある袴岳。タングラム斑尾東急リゾートのすぐ近くにある山だ。

スノーシューを装着して、数メートルはあるであろう雪の壁を登って林に入る。真冬は一面真っ白だった雪の表面には、さざなみのような跡がついている。これは雪紋(せつもん)と言って、硬くなった雪の表面が風で削り取られることでできるものだそうだ。暖かい日が増えたことで、雪の表面が溶け、硬くなったからだという。まるで春の足跡のように思えてくる。

どこからともなく鳥のさえずりがし、ざらめ雪になった雪面を踏みしめるとザクザクと音がする。さらに進むと岩陰ではつららが溶けて、ぴちょんぴちょんと音を鳴らす。林の奥の方からは雪解け水によって水量が増えたのであろう川のせせらぎが聞こえてきた。春の到来は音でも告げられているみたいだ。

「春が近づいてくると目線が下がってくるんです。雪が溶けていくことで、足場が下がり、木の幹がもっと見えてくる。下草も生えてくる。目にするものが増えてくるので、見晴らしの良さを楽しめるのもあと僅かですね。」

とインストラクターさんが教えてくれた。そうか、今見えている世界は数メートル高い世界なのだということに気付かされる。

花粉を身に纏った杉の近くを通り、鼻を啜りながら、登っていくと急に視界が開けた。目の前に広がっているのは妙高山。雪を掘り、脚を入れるスペースを作る。即席のベンチが完成した。インストラクターさんがコーヒーを淹れてくれ、臨時営業の喫茶店が開店した。地元のお菓子と一緒にコーヒーの香りに包まれながらリラックスしたひとときを過ごす。まだ冬らしい静けさが漂っているこの場所は春がくればなくなってしまう幻の特等席。雪解け山の喫茶店ももうすぐ営業を終える。

llustration | Mayu Yamagata
「すまうもの。くらすもの。」のイラストは信濃町在住アーティストの方々によるものです

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