Hachi Medida

目でも口でも

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長野県信濃町。動物や虫など、その地に棲まう「小さきもの」にまなざしを向けながら、人の暮らしと重ねて句を読んだ小林一茶が生まれた土地でもあります。東京から信濃町に移り住んだ8 Hachi Media編集長のぶさん。この町にすまう命と人のくらしを季節の巡りとともにお伝えします。


春がきた。山にも里にも。春の楽しみといえば「お花見」もその一つ。信濃町では、オオヤマザクラやカスミザクラなど、ソメイヨシノ以外にも様々な種類の桜が目を楽しませてくれる。もう一つ忘れてはならない楽しみが「山菜採り」だ。ふきのとう、こごみ、たらのめ、こしあぶらなど、今だけの春の味覚を逃すまいと誰もが機会があれば山菜を摘んでいる。ここでは目でも口でも春を味わえる。

「2本くらいは残してね。上のくるんとなっているところから5cmくらいを摘めばよいの。」と道端に生えていたこごみの摘み方を教わりながら、山道を歩く。

教えてくださったのは20年以上前に信濃町に移住し、最近までペンションを経営されていたご夫妻だ。しかし、今日のお目当ては山菜ではない。「水芭蕉」だ。

何年にも渡って生えてくる宿根草である水芭蕉は、春になり雪解け水が流れてくることで出来た湿地から姿を現す。だが、水の流れが途絶えてしまったり、逆に急すぎて土が崩れたりすると上手く芽を出すことが出来なくなってしまう。お二人はボランティアで、水芭蕉を楽しめるように土地の手入れを続けている。

「ここの土が崩れているでしょう。このままだと来年は芽が出なくなってしまうから、ここを埋める予定なんだ。」

と話すご主人。今年の活動は来年の春もみんなで春を愛でるためのものなのだ。奥まで続く群生地は、そのようにして有志で守られ続けてきた景色。のぶさんは写真を撮るのに没頭して周りが見えなくなっているようだ。こんなに生えているとは思わなかったと驚いていたから無理もない。

「水芭蕉はね、冬眠明けの熊が食べるらしいんだよ。だから一人で見に行かない方がいいよ。」

そう言われると急に怖くなる。あまり離れないように気をつけながら、今だけの情景をフィルムに残していく。山の中は油断大敵。当たりのことを改めて思い出す。

熊にとって整腸作用があり、食べにくることがあるらしい。道中には、熊がつけたとみられる跡が所々木に残っていた。春を口でも堪能するのは、人間だけではなかったようだ。

Illustration | Shinobu Mitsuoka
「すまうもの。くらすもの。」のイラストは信濃町在住アーティストの方々によるものです

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