
長野県信濃町。動物や虫など、その地に棲まう「小さきもの」にまなざしを向けながら、人の暮らしと重ねて句を読んだ小林一茶が生まれた土地でもあります。東京から信濃町に移り住んだ8 Hachi Media編集長のぶさん。この町にすまう命と人のくらしを季節の巡りとともにお伝えします。
夜の森に入ったことはあるだろうか。
夏のある夜、明かりも持たずに、森の奥に進んでいく集団。その正体はアファンの森で開催された蛍鑑賞会の参加者である。のぶさんも初参加の企画だ。蛍の活動が活発になるのが夜8時前後のため、7時半頃から森に入る。懐中電灯を点けると蛍が来なくなったり、明かりの影響で蛍に気づきにくくなるため、月あかりを頼りに進んでいく。
目が慣れてきたのか、思ったより歩けるものですね、といった話をしながら池に着いた。少し先で何か光った気がする。
「あっ!いたっ!」
「もう1匹、あそこにもいない?」
と、みんなの声が飛び交い始めた。
「パチッパチッと短く光るのが平家蛍で、ふわぁ〜って光るのが源氏蛍らしいよ。」と蛍の違いを知っていたのぶさんも、2種類同時に観るのは初めてだそうだ。それが可能だというところに、アファンの森の生物多様性を改めて感じる。
そんな話をしているとふわぁ〜と1匹の蛍が飛んできた。これまでの蛍より光が強い。これが源氏蛍で、あっちが平家蛍なのだろう。
「やっぱり源氏が強いんだね」
「源氏なだけにね」
と含み笑いが、どこからともなく聞こえてくる。考えていることは皆、同じようだ。
一斉に蛍が出てきた。「パチッパチッと光りながら交差していく。これから雄が雌の奪い合いを始める。その真剣勝負を人間が物見遊山するというのは、よくよく考えるとシュールな景色かもしれない。
少し休んでくるね、とのぶさんが場を離れた。確かに光のせいか、暗闇という慣れない環境のせいか、眩暈がしてきた。まるで他の人が近くにいるのに、違う空間にいるような不思議な感覚になってくる。
少し予定を切り上げて先に帰らせていただくことにした。出口に向かう私たちの後を蛍がついてくる。「ここに水場はないから飛んできても仕方ないのにどうしたんだろう。普段はここまで来ることはないよ。」とガイドの方が驚くほど珍しいことらしい。
蛍の送り火に誘われるかのようにして、夜の森を後にした。

IIllustration | Karin & Suguri
「すまうもの。くらすもの。」のイラストは信濃町在住アーティストの方々によるものです
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8 編集室

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