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第2回 欧州グリーンディールによる環境規制群「Fit for 55」とは何か   #1

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気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。


 

【欧州駐在中の体験談】欧州人と気候変動(その2)

前回の体験談に続き、今回も欧州人と気候変動の関係について、私が実体験で感じたことを述べたいと思います。

 

私がドイツに住んでいた時は、毎年のように夏頃には熱波や洪水、南部のイタリアやギリシャでの山火事に関するニュースが報道されておりました。

ドイツでは2022年の夏が特に暑かった記憶があります。この年は降水量不足でドイツの大動脈であるライン川の水位が低下しました。ライン川はドイツのみならず欧州の物流にとっても重要な河川であり、オランダのロッテルダム港からの貨物船が日々行き交い、エネルギーや工業原料の輸送に大きな役割を果たしています。

 

しかし、ライン川の水位低下により貨物船の積載量が制限され、輸送の遅れが問題となりました。この頃に私が撮ったライン川の写真を見て頂けると、干上がって川幅の狭くなったライン川を貨物船が無理矢理(?)通過しているようにも見えます。私は内心、「事故が起きるのではなかろうか?」と心配して見ておりました。

 

また、ライン川は物流だけでなく、レジャーや観光の面でも欧州の生活に密着しています。写真のように観光客はライン川のクルージングを楽しめますし、カヌーなどのレジャーを楽しむ人々は、私の住んでいた家や勤務先の近くでも度々目撃しました。しかし、水位が下がると、これらのレジャーにも影響が出ます。

 

 

 前回の記事では、このように気候変動危機を感じたEUによる「欧州グリーンディール」について、これまでの経緯をご紹介しました。

 

今回は、欧州グリーンディールの気候目標を実現するための具体的な環境規制群である「Fit for 55」の解説を致します。

 

カバー範囲の広い「Fit for 55」

欧州グリーンディールの中でも最も重要と言われる「Fit for 55」は、全部で15本の環境規制群から成り、気候変動・エネルギー関係を広範にカバーします。どの環境規制がどのような内容をカバーしているのかが把握しづらいため、俯瞰しやすいように、図に15本それぞれの環境規制のカバー範囲を私の体感で整理しております。

 

15本の環境規制のカバー範囲は、大きく分けて以下の4つの切り口に分けて考えるとわかりやすいと思います。

 

 (1)1つめは、図の左側に配置したエネルギー供給側に関する内容です。これを更に二つに分けて、エネルギー源(つまり、自然から直接採取できる一次エネルギー源である化石燃料、原子力、再生可能エネルギーなど)とエネルギーの供給形態(電気や燃料や水素など)に分けると整理しやすいです。

エネルギー源に関する内容は、「再生可能エネルギー指令(REDIII)」が多くを定めており、エネルギー供給形態に関する内容は様々な環境規制が補い合う形でカバーしております。

 

 (2)2つめは、図の右側に配置したエネルギー需要側に関する内容です。エネルギー需要側は産業別に大きく4つに分けて、産業全般(鉄、非鉄、セメント、化学など)、輸送(自動車、船舶、航空機など)、建物、農業・土地に分けると整理しやすいです。

これらの産業に関わる企業に対して、省エネ、温室効果ガス(GHG)の削減、再生可能エネルギーの利用促進などが複数の環境規制によってカバーされております。

 

 (3)3つめは、図の真ん中の行に配置した炭素価格に関する内容です。欧州グリーンディールで多くの進展がありました。排出量取引制度である「EU-ETS」は改正によってカバー範囲を広げ、新しく「EU-ETSII」を作りました。また、いわゆる国境炭素税である「CBAM」も導入し、EU域内で製造を行ったりEU域外の工場からEUへ輸出したりする一部の日本企業は大きな影響を受けます。

 

 (4)4つめは、図の一番下の行に配置したEU政府やEU加盟国に関する内容です。環境規制を産業界にだけ努力を押し付けるのではなく、公の機関にも目標の設定や産業界への支援を課す内容となっております。

今回と次回で、これら15本の環境規制の概要について網羅的に触れるとともに、一次情報である原文へのリンクも貼り付けておきます。今回は、(1)エネルギー供給側と、(2)エネルギー需要側に関する環境規制を紹介します。


(1)主にエネルギー供給側に関連する環境規制

 

「再生可能エネルギー指令改正」通称:REDIII

 2030年までにEU各国のエネルギー消費の42.5%を再生可能エネルギーで賄う目標を設定しました。特に、再エネ由来のエネルギーから製造したグリーン水素やそれを由来とした合成燃料、先進バイオ燃料の利用拡大が強調され、これらが化石燃料に代わる重要なエネルギー源と位置づけられています。

 

ちなみに、この「REDIII」のカバー範囲は極めて広いので、全体を詳細に解説した資料やウェブサイトはほとんど見たことがありません。「REDIII」は、バイオマスや水素などの具体的テーマを切り口に解説されることがほとんどです。

 

 「REDIII」のバイオマスの内容に関してはこの連載の後半の回で取り上げたいと思います。また、水素に関して詳しく知りたい方は、欧州の有力水素団体である「Hydrogen Europe」から発信される情報がお勧めです。また、会員になれば図解されたPDF資料等も高い頻度で入手することができます。

「メタン排出規制」

 二酸化炭素よりも温暖化係数の大きいメタンの排出を抑制することは、世界的にも脚光を浴びております。COP26では、「グローバル・メタン・プレッジ」で、2030年までにメタン排出量を2020年比で30%削減することに100カ国超が賛同し、日本もこれに署名しました。このEUの環境規制は、化石資源の採掘・製造・流通の際に発生するメタン排出を規制します。

 このメタン排出量は「UNEP(国連環境計画)」「国際メタン排出観測所(IMEO)」において、人工衛星や地上センサーなどの複数のデータを活用して世界中のメタン排出を高精度で監視しています。

 

この情報は一般公開されており、以下の図のようにメタン排出量を示した世界地図を見ることができます。やはり、中東やアメリカなど、化石燃料が多く掘れる地域でのメタン排出量が多い傾向がわかりますね。

【図の出展】 国連環境計画の国際メタン排出観測所のデータベース(2025年4月14日のデータ)

「ガス市場指令」および「ガス市場規則」通称:2本を併せて「ガス市場パッケージ」

EUの水素ネットワーク事業者や加盟国に様々な義務を課し、水素インフラの発達を目指しています。また、自由競争に基づく水素市場・インフラの確立を行うため、水素ネットワークへのアクセスや料金に関して規定し、グリーン水素と低炭素水素はインフラ利用料金が優遇されます。 

 

(2)主にエネルギー需要側に関連する環境規制

 

「乗用車等のCO2排出基準規則」通称:CAFE規則

こちらは日本の報道などでも大変有名な内容です。自動車メーカーの企業平均燃費(CAFE)が、基準値を1グラム超過するごとに新車販売台数1台につき95ユーロ(約1万5千円)の罰金を課す内容です。

 

 CAFEの基準値としては2021年対比で、2025年~2029年は15%削減、2030年~2034年は55%削減を要求しております。

更に、2035年には100%削減、つまりゼロエミッションを要求しております。つまり、内燃機関車(いわゆるガソリン車のこと、ハイブリッド車も含む)をEU市場から退場させ、電気のみで走る自動車(BEV)や燃料電池車(FCV)を認めようという規制内容になっております。この「CAFE規則」の影響によるEVシフトのトレンドについては大いに話題になりました。

 

ですが、この環境規制は非常に厳しいため、現実とのバランスが考慮されはじめました。欧州自動車メーカーの業績悪化などを踏まえて規制緩和を行うべく、欧州委員会は2025年4月1日に改正案の発表を行いました。

 

 今後も、この「CAFE規則」以外の環境規制も含めて、「Fit for 55」で厳しく要求しすぎた内容を、EUとしてどのように規制緩和や延期措置をしてくるかは注目です。

 

「ReFuelEU Aviation規則」

 持続可能航空燃料(SAF; バイオ燃料、合成燃料、リサイクル炭素燃料など)の最低供給割合を以下のように義務付け、EUの空港や航空会社に義務を課す内容となっております。

✔︎ 2025年: 2%

✔︎ 2030年: 6%

✔︎ 2035年: 20%

✔︎ 2040年: 34%

✔︎ 2045年: 42%

✔︎ 2050年: 70%

 

 このような、短期・中期・長期の数値目標が明確に定められた環境規制があると、産業界も将来に向けた機会探索や投資計画を立てやすいと思います。SAFの製造や利活用を行う日本企業に関するニュースをこの1~2年はよく見かけるように思います。もちろん、規制緩和や適用延期の可能性については考慮に入れる必要はありますが。

 

「FuelEU Maritime規則」

持続可能燃料の使用を増やすため、船舶のGHG削減義務やゼロエミッション化の義務を課す内容となっております。以下のような具体的数値目標で、2020年対比で船舶使用エネルギーの年間平均GHG排出の削減義務が定められております。

✔︎ 2025年: 2%

✔︎ 2030年: 6%

✔︎ 2035年: 14.5%

✔︎ 2040年: 31%

✔︎ 2045年: 62%

✔︎ 2050年: 80%

 

「建物エネルギー性能指令改正」通称:EPBD

 EU域内の建物におけるエネルギー消費の削減を目的とした法律で、新築建物のゼロエミッション化や、既存建物の省エネ改修の加速が求められています。

 

次回は、「Fit for 55」に関する4つの切り口のうち(3)炭素価格に関する内容、(4)EU政府やEU加盟国についても解説いたします。

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writer | 

米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。

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