Hachi Medida

おらが蕎麦

メイン画像

長野県信濃町。動物や虫など、その地に棲まう「小さきもの」にまなざしを向けながら、人の暮らしと重ねて句を読んだ小林一茶が生まれた土地でもあります。東京から信濃町に移り住んだ8 Hachi Media編集長のぶさん。この町にすまう命と人のくらしを季節の巡りとともにお伝えします。


その日は初雪だった。特別豪雪地帯に指定されているほど雪深くなる信濃町でも初雪が降ると地元の方はわくわくするらしい。今日、11月19日は小林一茶の命日だ。法要が行われるとともに、彼の出身地でもある信濃町柏原地区(信州柏原)では、有志が集まって新そばを400人分振る舞うことになっている。その手伝いにのぶさんも呼ばれることになった。

早朝6時。こんな時間にも関わらず販売会場である柏原体育館では、既に設営が進められていた。女衆は薬味の準備、男衆は設営が担当らしい。手拭いを頭に巻き、「柏原」と書かれた法被を着て、エプロンをつけて手伝うために洗い場へ。400人分ともなると薬味の量も半端ではない。大根だけでも10本くらいはあるだろうか。ずっしりとした大根は、それぞれの家の畑で採れたものだそうだ。寒さで手がかじかむ中、女性5人でピーラーで一つ一つ皮を剥いていく。

「家はどこなの?」と移住してから何度も言われてきた質問に答えながら、この会のことを色々と教えていただく。地元の方々と交わりながら何かをする場は、自分を知ってもらうとともに、地域のことを深く知る重要な機会だ。何より一緒に何かをするということが楽しい。

蕎麦を茹でる予定の大釜は全部で3つ。この釜は、かつては地域で共同のものとして、保管し味噌を作るときに借りて自分の家の分の豆を煮て、次の人に渡すという使われ方をしていたそうだ。「昔は作る量も今とは違ったからねぇ。」東京で暮らしていた頃は、知ることのなかった共同体ならではの暮らし方に、人の温かさや、「本当の暮らし」というものを感じられる。これも移住してきたからこそ得られるものだ。

やがて蕎麦が運ばれてきた。

「新蕎麦だからね!」

「美味しいよ。」

「あなたも時間の空いているときに食べてね。」

と、女衆は楽しそうに話しながらも手はずっと冷水で蕎麦を締めている。その手は真っ赤になりながらも止まることがない。手際の良さに思わず目を奪われる。待っているお客さんの人数を告げて、出来上がった蕎麦をお客さんに渡していく。「お待たせしました!」そう言いながら笑顔で渡す姿は、のぶさんも地域の一員になってきていることを報せているかのようだった。

Illustration | Izumi Iwashiro

「すまうもの。くらすもの。」のイラストは信濃町在住アーティストの方々によるものです

▼次回のお話を読む

▼前回のお話を読む

writer | 

8 編集室

Hachi Medida