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第7回 欧州グリーンディール発表後に社会情勢が動かしたEUの環境規制 #3

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気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。


第5回第6回と欧州グリーンディール後のEUのとった方向性を解説してきました。

今回は、記憶にも新しい2024年以降の状況を振り返りたいと思います。2024年は欧州グリーンディールの思想を引き継ぎつつ、その実行やバランスの取り方に現実的な再調整を行った一年だったように思います。

(1)欧州議会選挙とフォンデアライエン委員長の再選

まず大きな変化があったのが、2024年6月の欧州議会選挙です。欧州議会選挙は、EU市民が5年ごとに直接投票で欧州議会議員(720名定数)を選出する選挙です。

議員数は各加盟国の人口比に応じて配分され、当選した議員は国ごとではなく政党に属します。この構成がEU法制や政策の方向性を左右し、欧州全体の政治バランスに大きな影響を与えます。

図は、選挙結果を表しており、政党の議席数の数が視覚化されております。グリーン政党(Greens/EFA)は議席数を減らし、右派や中道右派(EPP、IDなど)が議席を伸ばしました。背景には、官僚主義やグリーン疲れ、移民問題、産業界の疲弊、物価高騰などの影響があったようです。

【図の出展】欧州議会「2024 European election results」

また、欧州委員会のフォンデアライエン委員(中道右派・EPPに所属)は2019年に引き続いて、欧州委員会の委員長として再選されました。

(2)ドラギレポートが投げかけた現実志向

この軌道修正を象徴する出来事が、2024年9月に発表のマリオ・ドラギ氏によるレポート(通称ドラギレポートです。元欧州中央銀行(ECB)総裁のドラギ氏は、フォンデアライエン委員長の要請を受け、欧州の競争力強化に向けた提言書を取りまとめました。このレポートでは、以下の懸念から現実面も考慮した政策立案が提言されております。

  • 欧州は太陽光・風力・電解装置などの製造分野で中国に後れを取っている

  • 化学・鉄鋼・セメントなどのエネルギー多消費型産業が高コスト構造で競争力を失いつつある

  • 脱炭素に向けた厳しいルールが産業空洞化やEU域外依存を加速させている

【写真の出展】欧州委員会「欧州の競争力の未来―マリオドラギのレポート」

(3)欧州委員会の再編と「競争力コンパス」「クリーン産業ディール」

再選されたフォンデアライエン委員長は、このドラギレポートの提案も取り入れる形で新たな欧州委員会の体制をまとめ、2029年までの今後5年間に向けた戦略を打ち出しています。

2025年1月、欧州委員会は、欧州の活力を回復し、経済成長を促進するための新たなロードマップである競争力コンパス」を発表しました。これはドラギレポートの提案に基づいた今後5年間の欧州委員会の戦略となります。

「競争力コンパス」で示した方針のうちの一つが規制の簡素化です。欧州グリーンディールにおける2050年のカーボンニュートラルの目標は変わらないが、規制を一律に押し付けるのではなく見直す流れです。すなわち、実現可能性や産業界の声も踏まえて調整する姿勢が強まりました。中小企業への配慮、報告義務の簡素化、制度の段階的適用といったことが期待されます。早速、欧州委員会から2月に「オムニバス簡素化パッケージ」という、企業負担の重い規制に対する緩和案が出ました。

また、これと同じタイミングで、「クリーン産業ディール」を発表しました。これには例えば、エネルギー集約型産業(鉄鋼、セメント、化学など)の脱炭素化や電化に向けて、エネルギーコストの削減とクリーンエネルギーの導入を加速することが記載されています。また、過度な特定技術への縛りは避ける「技術中立(Technological Neutrality)」原材料や部品のサプライチェーン強化などについても言及されています。

さて、本連載ではこれまで前半パートとして、欧州グリーンディールのうち気候変動・エネルギー分野、および、欧州グリーンディール後に社会情勢が動かしたEUの環境規制について解説しました。次回からは、後半パートとしてサーキュラーエコノミー関連を解説いたします。

【あとがき】次の5年間のEUのメッセージとは

前回の冒頭で、ブリュッセルの欧州委員会の本部ビル「ベルレモン(Berlaymont)」に掲げられていた巨大なバナーのお話をしました。

第2期となるフォンデアライエン委員長の欧州委員会が新しく発足するとともに、2024年12月にはバナーも新しくなりました。写真のスローガンを見ると「UNITED for our FUTURE」とあります。

【写真の出展】欧州委員会ニュース「Coming up for the EU in 2025」2024/12/31

このバナーの写真とともに欧州委員会がホームページ上で出しているメッセージを以下に翻訳してみました。今後のEUの考え方や方針を大局的に知るために、参考になると思います。

世界は混とんとした状況にあり課題が山積みではあるけれども、持続可能性の他にも様々なテーマにEUとして一致団結して対応していく、というメッセージが感じ取れます。

<以下、翻訳>
2025年は、私たち全員にとって、またもや波乱に満ちた困難な年になることが約束されている。 国内外においてなすべきことは山積しているが、その過程で祝うべき重要な節目もいくつかあるだろう。

EUは、世界の舞台で重要な役割を維持する。 EUは、プーチンの侵略に直面しているウクライナとともに揺るぎない立場を維持し、ウクライナ・ファシリティとG7融資のおかげで、2025年に向けたウクライナの資金ギャップの大半をカバーしている。 中東も注力分野のひとつである一方、米国が新指導部に就任した暁には、大西洋を越えた強固な関係を構築したいと考えている。

(中略)

欧州委員会では、今後数ヶ月の間に、EUの競争力、持続可能性、防衛、安全保障、デジタル技術の向上に役立ついくつかの新しい取り組みが行われる。 また、2025年の次期多年次財政枠組(2028~2034年)についても進展がみられるだろう。

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米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。

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