
気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。
2024年11月に、アゼルバイジャンのバクーで開催された「COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)」を訪問しました。以下の写真1はグリーンゾーンと呼ばれる、気候変動に関する展示やワークショップが行われた会場付近で撮影したものです。一方で、政府関係者やメディア関係者のみが入れるゾーンはブルーゾーンと呼ばれます。

写真1
グリーンゾーン内に、写真2のように、「Pebble of Thought」という「小石を投げて最も重要と思う環境問題に投票する」展示を見つけました。投票対象は以下の3つありました。
生物多様性・自然(左側;緑色の容器)
気候変動(中央;青色の容器)
プラスチック汚染(右側;黄色の容器)
写真では見づらいですが、「プラスチック汚染」が投票された量は「気候変動」の投票量の60%くらいでした。「COP29」がそもそも気候変動をテーマにしていることと、「プラスチック汚染」という狭いコンセプトにも関わらず、比較的プラスチックに関する注目度は高いのではないかと思いました。

写真2
サーキュラーエコノミーの概念はプラスチック汚染問題だけではないですし、プラスチック以外の産業も関わってきます。それを考慮して考えると、サーキュラーエコノミー全般としては気候変動に匹敵する課題感を持たれているのではないかと、この投票を見て思いました。
2025年に入ってからのニュースで世界の空気感を見ていると、気候変動は世界の国々が協力しないとなかなか進まないもので、1国や1地域だけでは進まないと再認識しました。私たちは温室効果ガス(GHG)が放出される大気を、世界中で共有しているわけですから。
一方で、サーキュラーエコノミーはモノの循環ですので、日本国内だけでも、さらに言えば地方の地産地消型であっても進めることができます。
さて、これまで本連載では前半パートとして、欧州グリーンディールのうち気候変動・エネルギー分野を取り上げてきました。その中心にあったのは、「Fit for 55」と呼ばれる気候変動・エネルギーに対応するための15本の環境規制でした。
一方、今回から解説していく欧州グリーンディールにおける「サーキュラーエコノミー」の中心にあるのは2020年3月に欧州委員会が発表した「サーキュラーエコノミーアクションプラン(CEAP)」です。
CEAPは法的拘束力がありませんが、「リニアエコノミー(線形経済)からの脱却」と「産業競争力強化」を両立させることを目的とした計画です。背景には、資源枯渇リスクや地政学的サプライチェーン不安、そして環境負荷の増大があります。このCEAPに沿って、欧州グリーンディールのサーキュラーエコノミー関連の環境規制が打ち出されてきました。
CEAPでは以下のように、7つの産業分野を中心に、製品や素材ごとにサーキュラーエコノミーに関する計画が策定されました。特にプラスチックは単独で対応項目に取り上げているのに加え、プラスチックが多く使用される自動車、包装、テキスタイルといった分野もサーキュラーエコノミーへの転換が計画されました。
EUのサーキュラーエコノミー計画に占めるプラスチックのウェイトは高いと見て良いでしょう。
<対象の産業分野>
エレクトロニクス、ICT
バッテリー、自動車
包装
プラスチック
テキスタイル
建設
食品
<施策例>
製品長寿命化
リユース・リサイクルなどが可能なエコ設計
リサイクル素材の利用
使い捨て製品を削減
売れ残り製品の廃棄禁止
製品のサービス化
デジタル技術の活用
CEAPによるサーキュラーエコノミーの環境規制を具体的に紹介する前に、過去のEUの環境規制がどのようなコンセプトで設計されていたか、簡単に触れておきます。
図1は、リニアエコノミー時代のモノの流れを簡単に表したものです。過去のEUの環境規制はほとんど、図1の右下の青枠で囲んだように「静脈側の廃棄物にどう対処するか」という点にフォーカスされていました。
1970年代は有害廃棄物による環境や人体への被害の他、廃棄物の行き場にも困っていました。これらに如何に対処するかということが環境規制のフォーカスポイントでした。
その後、汚染者負担の原則(PPP;Polluter Pays Principle)、廃棄物ヒエラルキー、拡大生産者責任(EPR;Extended Producer Responsibility)など、長い時間をかけて規制内容が整備されて有害廃棄物への対処や廃棄物の削減がうまくいくようになってきました。

図1
EUにおいてはこれらの基本コンセプトは廃棄物全般の約束事を決める「廃棄物枠組指令(WFD)」によって規定され、改正が繰り返されてきました。2023年には、この「WFD」は欧州委員会から改正案が出されており、繊維や食品の廃棄物への規制を強化しようとしております。
2025年2月にはトリローグにおいて合意形成されたので(参考:欧州議会プレスリリース)、2025年中には官報公示されて内容がFixされると思います。
(※なお、EUの法律制定プロセスについては、第5回の冒頭で解説いたしました。)
このような大きな流れや過去に出現したコンセプトは日本でも同様です。日本では、以下のようにEUと同様のコンセプトが各法で定められております。
汚染者負担の原則(PPP);公害防止事業費事業者負担法(1971年)など
有害廃棄物、廃棄物処分;廃棄物処理法(1970年)
廃棄物ヒエラルキー;循環型社会形成促進法(2000年)
静脈側のリサイクル目標;資源有効利用促進法(1991年)
拡大生産者責任(EPR);各リサイクル法で規定され、例えば、容器包装リサイクル法(1995年)、自動車リサイクル法(2002年)など
日・EUの最も大きな違いは、エネルギー回収(熱回収)です。EUは「WFD」の中でリサイクルの定義から外れているのに対して、日本は「循環型社会形成促進法」の第2条で、以下の記載が見られます。
“この法律において「循環的な利用」とは、再使用、再生利用及び熱回収をいう”
ですので、エネルギー回収は日本では「サーマルリサイクル」と呼ばれ、リサイクルにカウントされます。
図2は、サーキュラーエコノミーに関わるモノの流れを簡単に表したものです。近年(欧州グリーンディール発表後の2020年以降)のサーキュラーエコノミーの環境規制で登場した重要なコンセプトを図2の橙色で表現しております。
私の理解では、EUの主な新しい規制コンセプトは、「モノを循環させる前のデザイン」「動脈側でのリサイクル利用材の利用義務化」「デジタル製品パスポートなどによる情報開示要求」です。

図2
また、図2には記載しませんでしたが、プラスチック汚染による人体や環境への影響もクローズアップされました。例えば、「マイクロプラスチックに関する環境規制」、「PFAS規制」なども新しい規制案が出たため、こちらも重要です。これらの環境規制はサーキュラーエコノミーよりも化学物質管理的なニュアンスのある内容が多いので、本連載では解説する予定はありません。
次回は、欧州グリーンディールのサーキュラーエコノミー関連の環境規制の中でも、最も早く進んだ「電池規則」について解説いたします。
次回の記事
前回の記事
writer |
米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。
ー シリーズ別に探す ー