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第9回 サーキュラーエコノミー政策の一丁目一番地である電池規則

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気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。


【欧州駐在体験談】環境都市アムステルダム

 

オランダのアムステルダムは環境に力を入れている街として有名です。実際にアムステルダムへ訪問してみて、当時「ドイツと少し違うな」、と感じた点は特にモビリティに関する部分でした。

一つ目は非常に自転車に乗っている人が多い点です。多くの道路で自転車専用道路が整備されているのはドイツも状況は同じです。一方で、写真1を見て頂けるとわかるように、アムステルダムは明らかに自転車人口密度が他の欧州の都市よりも多いと感じました。

最初に目撃したときは、私はぼんやりと散歩していたため、信号が変わった瞬間に怒涛のように押し寄せる自転車の大群に吞まれそうになり、驚きました。

写真1

 2つ目は、1人乗りの超小型EV(Electric Vehicle:電気自動車)の多さです。写真2のように、運が良いと(?)二連続でこのタイプの車が並んで走っているくらい、頻度高く見かけました。

写真2

また、これらEVを充電するステーションの数も他の都市より多かった印象を受けました。写真3のような、交通量の少ない住宅街に充電ステーションがポツポツと配置されており、給電中のEVを沢山見ることができました。

写真3

 

 このように、欧州で環境対策に力を入れている都市は、訪問してみるとその理由の片鱗を感じることができます。


さて、ちょうどアムステルダムの充電ステーションのお話が登場したところで、今回は2023年にEUで施行された「電池規則」からスタートしたいと思います。今後、欧州グリーンディールにおけるサーキュラーエコノミー関連の環境規制を解説するにおいて、この「電池規則」は非常に重要です。

欧州グリーンディールのサーキュラーエコノミーに関する環境規制のうち早く発表され、サーキュラーエコノミーに関する様々な規制コンセプトを含む内容となっております。

図1は、電池のサーキュラーエコノミーに関わるバリューチェーンの中で、「電池規則」のカバー範囲が記載されております。「電池規則」では、図中に吹き出しで示したように、設計、製造、原材料調達、リサイクル、カーボンフットプリント(CFP)、情報開示に至るまで全ライフサイクルを対象に様々な環境規制を行っています。

図1

【図の出展】Battery Associates “EU Battery Regulation (2023/1542) on Batteries and Waste Batteries” 2024/5/27

このように「電池規則」の内容は、非常に広範にカバーされておりますので、今回の記事では「電池規則」でとりわけ重要となる3つのトピックのみに絞って解説します。

(1)バッテリーパスポート:2027年から義務化

「電池規則」のうち最も有名な内容のひとつが「バッテリーパスポート」です。

これは電池に対し、製造・性能・組成・原材料調達・CFP・分解情報などのデータをデジタル的に入力し開示することを義務づけるものです。

図2に示すように、消費者等は電池に添付されたQRコードなどを読み取り、アプリ上でこれらの情報を表示させるようなイメージで動作します。

また、バッテリーパスポートに保存された情報の公開範囲としては、一般消費者・利害関係者・監督機関など、ステークホルダーごとに異なるアクセス権が定義されています。

欧州グリーンディールのサーキュラーエコノミー政策では、後の回で解説予定の「エコデザイン規則(ESPR)」というものがあります。これは製品に対してサステナブルな設計要件を求めるもので、最近話題の「デジタル製品パスポート(DPP)」についても要求しております。バッテリーパスポートはこのDPPの電池版と思ってもらって構いません。なお、「ESPR」については、本連載の第11回で登場予定です。

DPPの規制化が始まる前に、バッテリーパスポートが先に規制化されるため、バッテリーパスポートの仕様は大変注目を集めております。

図2

【図の出展】Horizon Europe助成金プロジェクト「BATT4EUパートナーシップ」 (2023/7/13)

(2)原材料とサプライチェーンのデューデリジェンス:2025年8月から実施義務

「電池規則」では、原材料のデューデリジェンス(DD)と、社会・環境リスクのDDが義務化されます。義務対象は電池メーカーや自動車メーカーですが、サプライヤにもDD実施のために顧客から指導や命令が入ると想定されます。

※デューデリジェンス
企業がサプライチェーン上を含めた事業における対象のリスクを特定し、その防止・軽減を図り、取組みの実効性や対処方法について説明・情報開示する、という一連の行為

<原材料のDD>

コバルト・リチウム・ニッケル・天然グラファイトなど、それらの化合物で電池活物質製造に必要なものが対象となります。電池事業者は、サプライチェーン上流関係者を特定し、原材料やサプライヤに関する情報を取得、管理しなければなりません。

<社会・環境リスクのDD>

サプライチェーン全体で、人権・労働権や環境に悪い影響を与えていないか、についてリスク管理などを行う義務が生じます。具体的なDDの内容は細則として2025年2月18日に発表される予定でしたが、なにも音沙汰がない状況でした。ですが、2025年5月21日に、欧州委員会から2026年7月26日へガイドライン発表を延期する旨の改正案が発表されました。

この細則は、様々な国際ガイダンス、例えば国連やOECDなどのガイダンスが参考にされるようです。

(3)金属リサイクル義務と再生材使用比率:2028年以降に本格化

「電池規則」では特に重要な金属資源をEU域内で循環させるために、動脈側、静脈側の双方において定量的目標を設定しております。

以下、目標例です。

◆回収された電池の金属総量のうちリサイクルされる率(重量ベース)

  • 2027年:コバルト、銅、鉛、ニッケルは90% / リチウムは50%

  • 2031年:コバルト、銅、鉛、ニッケルは95% / リチウムは80%

◆電池の金属原料中、金属リサイクル材の含有率(重量ベース)

  • 2031年:コバルト(16%)、鉛(85%)、リチウム(6%)、ニッケル(6%)

  • 2036年:コバルト(26%)、鉛(85%)、リチウム(12%)、ニッケル(15%)

これまでEUの環境規制では、リサイクルの定量的目標については静脈側、すなわち廃棄物がリサイクルへ回る割合などが規定されていました。動脈側でリサイクル材を○○%以上使用せよ、という義務化は、この「電池規則」が初めてです。

その後のサーキュラーエコノミーの環境規制では、「包装廃棄物規則(PPWR)」や「廃自動車規則(ELV規則)」で、電池と同様に動脈側でのリサイクル使用率(プラスチック)の定量目標が示されました。

 次回は、製品のカーボンフットプリント(CFP)のルールについてご紹介いたします。「電池規則」ではCFPのルールも扱っていて非常に重要なトピックなので、このタイミングで電池以外の事例とともに解説します。

あとがき:欧州グリーンディールの推進と資金設計

私が欧州に駐在していた頃、よく聞かれた質問が「EUはサステナビリティ関連の補助金はあるか?」という質問でした。

答えは、「はい、あります。」となります。欧州の環境規制の裏には、資金設計があります。その設計が、「ルール(規制)」と「インセンティブ(補助金・金融)」の両輪で進められているのが特徴です。例えば、最近の例で言えば、第4回でもご紹介した「ネットゼロ産業法(NZIA)」「欧州水素銀行」などの資金によるインセンティブが、脱炭素推進の一環として設計されております。

EUには沢山の補助金の種類があり非常に混乱します。補助金を調べる際に便利だったのが、欧州委員会が用意した補助金検索システム「Financial Transparency Systemです。過去、どのようなプロジェクトにEUの補助金が払われてきたかを調べることが可能です。

さて、今回紹介した「電池規則」が発表されたのは2020年12月です。これは欧州グリーンディールの発表(2019年12月)から1年後のタイミングで、非常に早く進んだ環境規制でした。

一方、欧州グリーンディールや「電池規則」よりも前から、EUでのサステナブルファイナンスの土台づくりは既に始まっていました。2018年には、「EUサステナブルファイナンス行動計画」のほか、「EUタクソノミ規則」の案や「SFDR(サステナブルファイナンス開示規則)」の案が欧州委員会から発表されました。

このようなEUのサステナビリティへ向かう資金フローのイメージ図が、図3に示すように「EUサステナブルファイナンス行動計画」の文書で表現されております。

図3

【図の出展】「EUサステナブルファイナンス行動計画」 2018/3/8

図3からは、「サステナブルな事業活動に民間金融機関や投資家資金を流す」という意図が表れております。ですので、今回紹介した「電池規則」のような環境規制は、既に土台のある金融・資金ルールに基づいた資金の受け皿として機能する側面もあると私は考えております。

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米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。

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