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第10回 カーボンフットプリントのルールがガイダンスから規制へ

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気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。


【欧州駐在体験談】欧州の産業界の声とルールメイキング

EUの環境規制について、欧州産業界の一次情報を集めるのに有効な方法はいくつかあります。そのうちの一つが、業界団体のイベントに参加することです。

 私は、EUの「PFAS規制案」について、欧州企業の考え方や取り組みを知りたかったため、ある業界団体のイベントに参加しました。あまりメジャーな業界ではなかったために、デスクトップリサーチでは手に入る情報が限られていました。

しかし、ポルトガルのリスボンで開催された業界団体イベントでは、数多くの業界関係者からの一次情報を引き出すことができました。この一次情報を整理して業界のトレンドを分析することで、自社のアクションとスケジュールを明確化することができ、非常に有意義でした。

 イベントにおいては、講演会やパネルディスカッションのような場とともに、長めのランチタイムやコーヒーブレイクが設けられることが多く、他社との交流のチャンスとなります。

しかし、知らない人に話しかけるのは、仮に相手が日本語を話す日本人であったとしても大変エネルギーを使います。

 このイベントが特に良かったのは、イベント開催者が準備したリスボン市内の観光ツアーです。写真1のようなトゥクトゥクに参加者を乗せてガイドさんが案内してくれるイベントに有志で申し込むものでした。同じトゥクトゥクに乗った参加者とは自然と打ち解けて話ができるため、情報を色々と引き出すことができました。

写真1

 ツアーが終わりホテルに戻ってきた際には、ロビーに置いてあるTVで、サッカー日本代表、スポルティング・リスボンに所属の守田選手が写真2のように特集されておりました。同じトゥクトゥクに乗っていた参加者から「JapanのMoritaは知っているよ!」と声をかけてもらって、サッカーファンとして嬉しかったことを憶えております。

写真2

また、他の業界団体では「カーボンフットプリント(CFP)」のルール作りの会議に参加する機会がありました。そこで、欧州の自動車業界のリーダーたちが、自分たちの手でルールを牽引しているという強い自負を持っていることを改めて実感しました。中でも印象的だったのは、ある欧州自動車メーカーからの参加者が語った次の発言です。

「自動車のCFPルールは、我々自身が自分たちで設計するべきだ。近年は素材産業の団体等が独自の業界ルールを制定している動きが多い。こういう業界独自のルール制定は、ルールが乱立して、混乱を招いている。我々は自動車産業を代表するメンバーであり、他の団体や他業界の動きに歩み寄る必要は果たしてあるのだろうか。」

 欧州では業界団体に欧州の有名企業が多く参画し、業界団体独自のルールを制定・発表する動きはよく見られます。産業界にとって納得のできるルールを、細部の内容がEUや各加盟国法で規制化される前に作り、発表し、広めることで「デファクトスタンダード化」したい思惑を感じる時もあります。


さて、今回は、EUにおけるカーボンフットプリント(CFP)の規制化の動向について触れたいと思います。上述のように、これまではガイダンスレベルで運用されていたCFPが、EUでは規制として本格化するという大きな転換期にあります。

(1)これまでのCFPガイダンスの流れ

 EUのCFPルールは、これまでのガイダンスを土台として引用、活用した上で、EUとしてのルールをそこに上乗せしていくイメージです。以下の図1は、CFPの国際ルールやEUのルール、産業界のルールの関係性をピラミッドで表した図です。

図1  【図の出展】バッテリーパスポートの欧州団体「Battery Pass」の「Battery Passport Content Guidance」 2023/12

 図1ではピラミッドの下の方に書かれているものが、EUのルールのベースとなる基本的なルールになります。

例えば、国際標準である「ISO14067」や、「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」「世界資源研究所(WRI)」による設立機関が開発したスコープ1、スコープ2、スコープ3を定義した「GHGプロトコル」、化学産業向けのルールである「TfS(Together for Sustainability)」などがありました。

EUとしても、「製品環境フットプリント(PEF)」というガイダンスがありました。2021年にこのPEFの使用を「勧告(Recommendation)」として出しましたが、これは「規則(Regulation)」や「指令(Directive)」より弱く、法的拘束力がありません。

※これらのEU法の違いを知りたい方は、EUの解説ページをご覧ください。

PEFはCFPだけではなく、環境に影響を与える16要素、例えばオゾン層破壊、人体毒性、水使用、鉱物などを多面的に評価する手法です。また、図1はEUの電池業界が出しているので、ピラミッドの上に行くと自動車や電池関係のCFPルールが例示されており、より製品に特有の内容となっていきます。

(2)EUでのCFP規制化の始まり

 上記のようにこれまでガイダンスレベルであったCFPの計算方法を、世界で初めて規制しようという初めての試みが、前回にご紹介したEUの電池規則です。EV用電池のCFP開示が2025年2月から義務化され、2028年にCFP値に上限閾値(高いCFP値のEV用電池は上市できない)が設けられるとのことで、厳しいルールとして注目を集めました。

しかし、欧州委員会からのEV用電池のCFP計算ルールの発表が遅れているようで、私の知る限り2025年5月の時点では内容がFixされていないようです。このルールについては、既に2024年の4月に欧州委員会から細則案は出されております。その案を見るとまず、製造、輸送、廃棄などライフサイクル全体でのCFP算出が求められます。

また、日本や諸外国にとっては少々不利なルールもあります。

電力消費ミックスに関してロケーションベース方式を採用するため、日本の電力CFPは全国平均値として計算されるケースが多く、企業の再エネ利用努力が反映されにくいのです。おおざっぱな解釈としては、EUの「再生可能エネルギー指令(REDIII)」で定められた再エネ以外はほぼ認めないということです。

※REDIIIに関しては第2回で解説済。

EUの再エネはREDIIIで定める「GO(Guarantee of Origin)」という原産地証明のスキームがあるので再エネの信頼性が高いが、EU域外の再エネは信頼ならない、というスタンスのようです。

(3)CFP計算ルールの複雑さ:Circular Footprint Formula(CFF)の導入

また、電池規則の細則案によるCFP計算のルールでは、「Circular Footprint Formula(CFF)」という複雑な計算式を考えております。リサイクル材や廃棄物処理に関するCFP値を正確に近づけることを目的としていますが、パラメータの数が非常に多いため、計算が難解になるという課題があります。

どのくらい複雑か理解いただくために、細則案の原文からCFFを記載した部分を図2に載せておきます。私はこれらの式を最初に見たときにほとんど意味が分からずに、理解するまでに丸々2、3日を要しました。。。

図2

この式の中には、リサイクル材の品質、廃棄物の処理方法、エネルギー回収率など、動脈側での物質投入、廃棄物後の処理、避けられた排出など、ライフサイクル全般のあらゆる要素を組み込んでいます。これにより式が複雑化していると同時に、上下流データの収集が必要になることで企業にとって新たな負担が発生します。

ちなみに、このCFFは突如として降ってきた計算ルールではなく、これまでもPEFのガイダンスには記載されておりました。

(4)今後の展開

EV用電池のCFPルールは、その他の電池だけにとどまらず、繊維やタイヤなど他の産業にも波及する可能性があります。例えば、次回にご紹介する「エコデザイン規則(ESPR)」で定められる、「デジタル製品パスポート(DPP)」のデータ入力要件にCFP値が含まれる可能性が高いです。これにより、企業は将来的にさらに詳細なデータ収集と連携を求められるでしょう。

 次回は、この「エコデザイン規則(ESPR)」「デジタル製品パスポート(DPP)」についてご紹介いたします。

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米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。

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