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第5回 欧州グリーンディール発表後に社会情勢が動かしたEUの環境規制 #1

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気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。


【欧州駐在体験談】EUの政府機関と法律制定プロセス

 本連載の第0回・プロローグでも記載したように、私はブリュッセルにあるNPO法人JBCE(在欧日経ビジネス協議会)で、事務局員としての仕事をしておりました。ブリュッセルは重要な政府機関や各国大使館、NGO、NPO、シンクタンクなどが集まるEUの政治の中心地です。

EUの法律に関わる主要な政府機関は欧州委員会、欧州議会、EU理事会の3つです。以下の図1の地図に示すように、これら3つの機関は徒歩圏内にあり、JBCEからもアクセスがしやすい場所にあります。

また、欧州議会はフランスのストラスブールにもあります。欧州議員は毎月ストラスブールとブリュッセルを行き来するため、大変らしいです。

図1

【図の出展】The New York Times (2016/3/22)を加工して作成

ちなみに、ブリュッセル観光の中心地である、世界遺産のグランプラス、チョコレートで有名なゴディバの旗艦店、小便小僧の像などは、この地図よりも西側へ徒歩30分ほどで行けます。

さて、今回紹介したいのは「EUの法律制定プロセス」です。

法律の草案を作成するのは欧州委員会であり、欧州議会EU理事会の2機関での審議と承認を経て、法律として成立します。正式には以下の図2のように、法律制定プロセスが行われます。

図2

【図の出展】Eurovision & Associates 概要レポート 第 15 回:EUの立法手続とEU 法(2024年3月)

図2を見ますと、第一読会で欧州議会とEU理事会での修正や審議を経て承認されると採択されます。承認されないと、第二読会へ移ってまた審議をやり直しになりますし、下手をすれば長い時間を費やして議論してきた法案が否決になってしまいます。

そこで、第一読会の前に、欧州委員会案、欧州議会案、そしてEU理事会案の3つを並べて議論する、いわゆるトリローグというプロセスを最近は行うことが多いです。このトリローグは非公式なプロセスです。正式なプロセスだけを経た際に手続きが長期化したり、不本意な否決などの不具合が生じないよう、事前にEUの3政府の間で根回ししておくような意味合いがあります。

このトリローグに入る前に欧州議会案やEU理事会案が出るのですが、これらは欧州委員会原案をベースに作られるものの原案から修正が入ることがほとんどです。規制を強める側、緩和する側、どちらも起こりえます。

実践的には、第一読会とか第二読会のことはあまり気にせずに、以下のプロセスで進むとしておけば充分です。

①    欧州委員会から原案の発表
②    欧州議会案のFix
③    EU理事会案のFix(上記②と順序が逆や、ほぼ同時のケースも)
④    トリローグ(非公式的なプロセス)
⑤    欧州議会の承認
⑥    EU理事会の承認
⑦    官報公示
⑧    施行

報道などでEUの環境規制を目にした際には、現在どの段階に位置するのか、ぜひ確認するようにしてみてください。


さて、前回まで、欧州グリーンディールが2019年末に打ち出されてからの5年間、EUが気候目標のための環境規制を網羅的に取り上げました。それらの多くは、上記で説明したような法律制定プロセスを経ております。

EUはこれらの法律制定プロセスを経た環境規制だけではなく、5年間で起きた社会情勢の変化に柔軟に対応し、現実とのバランスもその都度取ってきました。

そこで今回からは、2020年〜2024年の間に起こった主な出来事と、それが欧州グリーンディールの方向性に与えた影響を順に説明します。

コロナ危機と復興基金:グリーンへの投資を「財政」で後押し

2020年に世界中を襲った新型コロナウイルスは皆様の記憶にも新しいことでしょう。欧州も経済的な大打撃を受けました。私がドイツに駐在を開始した2021年春もコロナの真っ只中で、基本的にレストランなどは閉鎖されておりました。

このコロナ危機を逆に好機と捉え、「EU復興基金(NextGenerationEU)という大型の財政パッケージを創設しました。コロナからの経済復興支援金の総額7,500億ユーロのうち、少なくとも30%以上が脱炭素やサーキュラーエコノミーなどのグリーン関連、次に大きいのがデジタル関連の投資に充てられる設計となり、欧州グリーンディールの実行資金が大きく拡充されました。

「REPower EU計画」:エネルギー安全保障と脱ロシア依存へ:

2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始したことで、欧州のロシアへのエネルギー依存が露呈し、エネルギー安全保障の重要性が急激に高まりました。ロシアからの天然ガス輸入は、2021年度の統計でEU全体の約40%を占め、石油も約25%に達していました。

以下の図3に示すように、天然ガスはロシアから何本かのパイプラインを経由して欧州へ輸入されます。ドイツ北部のルブミンとロシアを結びバルト海を通るパイプラインは有名で、ノルドストリーム(Nord Stream)と呼ばれます。しかし、ロシア側はメンテナンスを口実に2022年8月末から天然ガスの供給を停止し、エネルギー問題がクローズアップされました。

図3
【図の出展】Spiegel

こうした状況を受け、EUは「Fit for 55」をさらに強化する形で、脱化石燃料化を一層推進するための新たな政策パッケージとして、2022年5月18日に「REPower EU計画」を発表しました。

REPower EU計画では、①省エネルギー化、②エネルギー源の多様化、③クリーンエネルギーへの移行、④投資促進、を重点指針とし、太陽光、バイオガス、水素などをFit for 55の当初予定よりも更に増やす方針を立てました。

アメリカの「インフレ抑制法(IRA法)」と「ネットゼロ産業法(NZIA)」

前回の記事でも簡単に触れましたが、2022年8月、アメリカで「インフレ抑制法(IRA法)」が成立し、再エネ・EV・水素などの脱炭素産業に対して巨額の補助金支援を打ち出しました。

欧州では「投資がアメリカに流れてしまうのでは」と懸念する声が高まりました。この時、ブリュッセルに拠点を置くシンクタンクの方に聞いた話では、EUの政府関係者の中にはアメリカの「IRA法」に対して露骨に嫌悪感や焦燥感を口にする方もいらっしゃったようです。

その後、欧州委員会は2023年2月に「グリーンディール産業計画」というアメリカの「IRA法」に対抗するためのEUのグリーン産業の保護・促進に関する計画、3月には「ネットゼロ産業法(NZIA)」を発表しました。これは、EU域内の脱炭素技術(太陽光、風力、バイオマス、原子力、ヒートポンプ、バッテリー、CCUSなど多岐にわたる)への優遇策となります。

 次回は、今回に引き続いて2023年の出来事を中心に振り返りを行いたいと思います。

次回の記事

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米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。

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