
気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。
この記事を執筆している本日(2025年6月27日)、株式会社esaの同僚から、「日本よりも欧州の方がリサイクル材の利用に関する厳しいルールがあるのですね。リサイクル材を展示会に出展する場合、日本よりも欧州の方が注目されるのですか。」と聞かれました。
今回、本当は別のお話(欧州のゴミ箱を観察して楽しもう!)について準備していたのですが、それは次回へ後ろ倒しし、ここでは欧州の展示会について触れます。
欧州で展示会に出展することは大変な労力です。欧州拠点の社員数はどの企業でも少ないことが多く、営業部や広報部が総動員で準備や説明員で担当しても、リソース不足になるケースがあります。ゆえに、日本からの出張者が展示会の応援に駆け付けることがあります。
展示会の開催場所にもよりますが、駐在員は展示サンプル品や日本からの出張者を車に乗せて長距離ドライブをすることになります。駐在員によっては、出張者のホテルの手配や、夕食のアレンジ、通訳作業まで、大きな展示会では1週間くらいフル回転する方もいます。
さて、プラスチック系の展示会で有名なのはK展(Kショー)で、3年に1度、ドイツ・デュッセルドルフで開かれます。また、FAKUMA展も大きな展示会で、毎回ドイツ・フリードリヒスハーフェンで開かれます。
欧州人は7月~8月の間に長い夏休みをとる方も多いため、展示会やイベントは5月、10月に集中します。上記の2つの展示会も10月開催です。
フリードリヒスハーフェンはスイスやオーストリアに非常に近い、ドイツ南部の街です。Hafen(ハーフェン)という言葉はドイツ語で“港”を意味するように、写真1のようにボーデン湖に面した静かな場所です。

写真1
フリードリヒスハーフェンはアクセスしづらく、デュッセルドルフからは約600km離れており、車で行くと休憩や渋滞も加味して8時間くらいかかります。フランクフルト空港から飛行機便も出ていますが、展示会開催時期は早めに計画しておかないと、席がとれません。
しかし、FAKUMA展に参加すると欧州プラスチックに関する市場情報が一気に集まります。プラスチックの製造装置や部品、成型機、金型、測定機など幅広く展示されておりますし、写真2のようにプラスチック材料の展示も豊富です。

写真2
私は、FAKUMA展には2021年と2024年に2回参加しました。この2回の参加で私が感じたリサイクル材に関する肌感覚は以下です。
リサイクル材を展示する企業のブースが増えた
同じ企業ごとに見ていくと、取り扱うリサイクル材の樹脂種類やグレードが明らかに増えた
ケミカルリサイクル品があまり展示されておらず、増えてもいない
バイオマスプラスチックは微増で、思ったより増えていない印象(第14回で解説予定の、欧州バイオマス動向を気にして、採用を躊躇している企業が多いと予想)
株式会社esaが扱うような、難リサイクル材(複合プラスチック材)をマテリアルリサイクルで行う企業は、いくら欧州といえども未だに存在しない
これをふまえると、冒頭の私の同僚の質問に対する答えは以下となります。
「通常のリサイクル材を展示しても、多くの展示品に埋もれてしまい注目されないだろう。ケミカルリサイクル品やesaのような特徴的な材料を展示すれば注目は集められる。」
次回のFAKUMA展は2026年10月です。今のうちに、欧州で何を展示すべきで、何をアピールすべきかを考えておくと、展示会本番で注目を集められるかもしれません。
今回からは、欧州グリーンディールにおけるプラスチックのサーキュラーエコノミーに関わる環境規制について解説いたします。今回は特に、動脈側でのリサイクルプラスチックの利用率がどのように義務化されているかを俯瞰整理したいと思います。
第8回で紹介しましたように、EUにおいてサーキュラーエコノミー関連の全般の約束事を決めるのは「廃棄物枠組指令(WFD)」です。例えば、「廃棄物の定義」や、「廃棄物処理の優先順位の考え方(廃棄物ヒエラルキー)」、「拡大生産者(EPR::Extended Producer Responsibility)」などの基本的コンセプトが記載されています。前回に紹介した「エコデザイン規則」と併せて、EUのサーキュラーエコノミーに包括的に関わる環境規制です。
その他、個別の産業ごとにサーキュラーエコノミーに関する環境規制が存在し、概要を以下の表にまとめました。
法律 | 施行 | 改正 | 対象製品 | リサイクル材 |
1994年 | 2018年 | 容器包装(紙容器、ビン、プラボトルなど) | 有り | |
2019年 | - | ストロー、食器、綿棒、風船の柄など | 有り | |
2000年 | 2026年 | 自動車 | 有り | |
2006年 | 2023年 | 電池(自動車用・産業用・携帯用など) | 有り | |
2003年 | 2012年 | 携帯、PC、TV、冷蔵庫、医療機器など | 無し | |
2024年 | - | 家電 | 無し | |
2011年 | 2025年 | 建材 | 無し | |
食品リサイクル | - | - | 食品 | 無し |
この一覧表を見ると、「リサイクルプラスチックの利用率に関する規制」がどの産業で直接的に義務化されるのかがわかります。それは、包装産業と自動車産業です。今回は自動車産業だけに絞って、次回に包装産業の解説を行います。
「廃自動車規則(ELV規則)」は2000年から施行された、その当時「ELV指令」に対する改正案です。
※「指令」や「規則」については、第10回でも登場しました。
「ELV指令」では、「鉛・水銀などの有害物質の使用制限」、「拡大生産者(EPR:Extended Producer Responsibility)」などが規定されておりました。また、静脈側における目標(廃自動車の年間のリユース・リサイクル可能率が車両重量あたりで85%、リユース・リカバリー可能率が95%)も定められておりました。図1は静脈側で回収された自動車が解体処分されるフローを表したものです。

図1 【図の出展】Project Driven
2023年に欧州委員会から発表された改正案では、これら静脈側への規定以外にも、バリューチェーン全体にわたって規制を課します。そのうちの一つが、動脈側でのリサイクルプラスチックの使用義務化です。
注目点は、動脈側でのリサイクルプラスチックの利用率を義務化しようとしている点です。図2は自動車に使用されるプラスチック部品のイメージです。

欧州委員会の原案では、2031年頃に車体のプラスチック総重量のうちPCR(ポストコンシューマーリサイクル)由来のリサイクルプラスチック利用率を25wt%以上要求しております。また、そのうちの25wt%以上(すなわち、全体からの割合は6.25wt%)は同車種からのクローズドループ由来であるべきと定めております。
上記(2)の欧州委員会の原案が厳しすぎると自動車産業界から多くの反対意見が挙がっており、今後の制定プロセスの中で規制内容が緩和される方向です。最終的に内容がFixされるのは2026年に入ってからになると予想します。
※第5回でEUの法律制定プロセスは解説済。
2025年1月29日には、「ELV規則」に対しての欧州議会の修正素案が発表されました。リサイクルプラスチック利用率を20wt%に下げ、うちクローズドループは15wt%以上(すなわち、全体からの割合は3wt%)とする内容を提案しております。また、PCRだけでなく、PIR(ポストインダストリアルリサイクル、工程端材など)やバイオマスプラスチックをリサイクル率のカウント対象に加えようとしております。日本企業の得意な炭素繊維を含有制限する案が加えられていることも要注意です。欧州議会案の正式決定は2025年9月頃になる模様です。
2025年6月17日には、「ELV規則」に対してのEU理事会案が発表されました。現実的なリサイクル率の目標値、つまり、2032年頃にリサイクルプラスチック利用率を15wt%に下げ、うちクローズドループは25wt%以上(すなわち、全体からの割合は3.75wt%)とし、段階的に引き上げる内容を提案しております。また、バイオマスプラスチックを対象とすべきかどうかの再検討を欧州委員会へ促しております。
次回は、包装業界におけるリサイクルプラスチックの利用率に関する規制について解説いたします。
JRC(Joint Research Centre)とは、欧州委員会の法案作成を支える欧州委員会の内部シンクタンクのような組織です。独立・客観的なエビデンスを提供し、環境・エネルギー・健康など幅広い分野をカバーします。欧州グリーンディール関連の政策設計にも深く関与していました。
欧州委員会の法案はこのJRCレポートを基に練られることがあり、法案発表と同時にその根拠となるJRCレポートが公開されることもあります。例えば、今回解説した「ELV規則」の欧州委員会案についても、その発表時にJRCレポートが付随しておりました。以下のリンクから入手することができます。
今回は、この「ELV規則」のJRCレポートに書いてあったことを少し探ってみます。
JRCレポートのニュアンスからは、ケミカルリサイクルがリサイクル率のカウント対象になるかどうかは更なる検討が必要とされております。ケミカルリサイクル技術のうち、解重合、油化、ガス化、溶媒抽出等が検討対象候補で、各々の技術課題を把握する必要があるとのことです。
つまり、廃棄物からの汚染物質の除去能力、エネルギー使用量(CO2排出量)、コストなどに関する懸念があり、更に調査を進めるようです。そして、正式な内容は「ELV規則」の細則によって決められる予定です。
JRCレポートでは、以下計算式によるリサイクルプラスチック率の計算方法を考えているようです。
(分子)リサイクルプラスチックの重量合計、しかし、添加剤とフィラーは除外
(分母)熱可塑性樹脂や発泡ポリウレタンなどのプラスチック総重量
現在、品質の観点で自動車メーカーはPIR(工程端材など)ばかり採用しているようです。将来的に自動車業界でリサイクル材の供給不足になるため、PCRのみをカウントする意図が書いてあります。また、バイオマスプラスチックも認めない方向です。
※結局、これらのJRCレポート記載内容を元に作成された欧州委員会の原案は、最近の欧州議会、EU理事会の動きを見ると規制内容が緩和されそうであることは本文中でも述べました。ご注意ください。
このように、法案の記載だけでは読み取れない背景や、欧州委員会の意図、将来の展望まで詳しく知りたい場合はJRCレポートが非常に役に立ちます。
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writer |
米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。
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