
気候変動、資源循環、サステナブル製品、環境表示など広範囲に渡るEUの環境規制。ともすれば無機質で難解なものに捉えられてしまうことも。けれどもEUの環境規制が世界的に影響することは少なくありません。今のEUを知ることで日本企業の未来を予想する。この連載では、その手がかりとして2020年から2024年までの「欧州グリーンディール」を取り上げます。
前回は欧州で見つけたゴミ箱の話をしました。今回は欧州の旅先で見つけた日本の話をします。私が暮らしていたドイツ・デュッセルドルフは、欧州でも有数の日本人コミュニティがあり、日本食材店やラーメン屋、居酒屋などが通りに並びます。その規模は年に一度の「Japan-Tag(日本デー)」にも表れており、街には日本のアニメのコスプレ姿のドイツ人があふれ、写真1のようにライン川の河川敷では日本式の花火が夜空を彩ります。

写真1
また、旅先でも思わぬかたちで日本を見かけます。スペイン領のカナリア諸島では、写真2のような鉄板焼きレストランがグランカナリア島の中心街にあり、その日滞在したホテルの夕食では日本食祭りと称したビュッフェが開かれていました。食事でも、日本は存在感を放っていると感じます。

写真2
そんな中、ロンドンを訪れた際には、写真3のようにロンドンコロシアムで「千と千尋の神隠し(Spirited Away)」の舞台が公演中でした。主役の千尋役を橋本環奈さんと上白石萌音さんのダブルキャストで臨むという、日本でも話題になった舞台がロンドンでも上演され、外国人の方で溢れかえっておりました。このように、アニメなどのコンテンツ側面でも、日本を目にする機会はありました。

写真3
一方で、自動車、エアコン、ゲーム機など一部は例外として、日本製品を見ることは少なかったように思います。また、欧州では日常的に様々な国のニュース番組を見ていましたが、日本の政治や産業、企業が取り上げられることはほとんどありませんでした。
そんな中、サーキュラーエコノミーというのは、世界でもまだ明確な勝者のいない事業領域でこれから成長する分野です。日本もまだ何か頑張れるのではないかと思います。
そして、具体的には書きませんが、私は、サーキュラーで何を頑張るのか、どう頑張るかについてのいくつかの仮説をもっております。同じようにアイデアや仮説を持っていらっしゃる方、サーキュラーで何かコトを起こしたいと考えている方は、意見交換をいただければ幸いです。株式会社esaのWebサイトのお問い合わせフォームより私にお声がけください。
さて、今回はサーキュラーエコノミーの一部を担うと言われることもあるバイオマスプラスチックについてお届けします。EUでは、バイオマスプラスチックの様々な論調があり、トレンドを全体俯瞰することが必要です。まずは、バイオ燃料に関する環境規制を理解すべきです。その後で、バイオマスプラスチックに関わる他の環境規制も見ていきます。
バイオ燃料のトレンドを知るためには、以前、欧州グリーンディールの「Fit for 55」について解説した際に登場した環境規制を掘り下げる必要があります。その中でも、最も重要なものが「再生可能エネルギー指令(REDIII)」です。
※第2回で「Fit for 55」と「REDIII」は登場済。
図1は「REDIII」等で規定されている、輸送セクターにおける燃料使用の目標値です。ここにバイオ燃料に関する使用目標が登場します。

しかし、目標達成のためには、どんなバイオ燃料を使っても良いわけではありません。サステナブルなバイオ燃料とは何か、の要件を「REDIII」は定義していますので、まずはその要点を見ていきましょう。
まず、「REDIII」においてバイオ燃料にネガティブな内容から確認しましょう。「REDIII」では「ILUC」(Indirect Land Use Change; 間接的土地利用変化)という考え方があります。この概念図が図2に記載されております。既存の農地等でバイオ燃料を生産するようになった場合、これまでに生産していた食糧に対する需要は残るため、炭素吸収源である森林等を食料用の農地に変えるなどの土地利用の変化が間接的に起きることを意味します。

図2
【図の出展】Climate impact and energy balance of emerging biorefinery systems, Hanna Karlsson Potter (2018)
EUはバイオ燃料の原料ごとに、このILUCのリスク調査を行いました。その結果、パーム油や大豆を原料とするバイオ燃料は高ILUCリスクとされ、2030年から使用が禁止されることが決まっています。一方で、次にILUCリスクが高いトウモロコシやサトウキビなどの原料は利用上限値(2030年時点で7%まで)が設けられます。
他にも「REDIII」の中で特に注目すべきなのは「先進バイオ燃料」の定義です。こちらは使用が推奨されているポジティブな内容です。2030年に5.5%以上の目標値(合成燃料との合計値)が設定されています。
先進バイオ燃料は基本的に非可食原料で、例えばセルロース系、森林や農業から出る廃棄物、さらには藻類などが対象に含まれます。これらの先進バイオ燃料は、「REDIII」の中にポジティブリストの形で明記されており、環境への負荷が少ない上に廃棄物活用の観点からも評価されています。
一方で、廃食用油(UCO)や動物油脂などは先進バイオ燃料には含まれないのでご注意ください。これらは、上述したトウモロコシなどの原料と同様に、利用上限値(2030年時点で7%まで)が設けられます。
REDIII以外でもEUがバイオ燃料についてどう考えているかを垣間見ることができます。全体的なトレンドを俯瞰するためには、これらの環境規制も見ておいた方が良いです。
※これらは、第2回と第3回で登場済。
持続可能航空燃料(SAF; バイオ燃料、合成燃料、リサイクル炭素燃料など)の最低供給割合を義務付け、EUの空港や航空会社に義務を課します。先進バイオ燃料の使用は奨励される一方で、先進バイオ燃料以外は年間全航空燃料の最大3%に制限されます。
持続可能燃料の使用を増やすため、船舶部門と港湾に温室効果ガス(GHG)の削減義務を課す内容です。こちらは一定の基準さえ満たせば、全バイオ燃料が奨励対象となります。
「エネルギー課税指令改正」通称:ETD
「Fit for 55」の中で唯一、まだ内容がFixしていない環境規制です。課税というのはEU各国が自身でコントロールできる権利を有するべき、という考えが強く、議論が前に進みにくいと聞いたことがあります。
バイオ燃料やグリーン水素、合成燃料などの再生可能エネルギーへの税制を優遇します。欧州委員会の原案では、化石燃料>可食バイオ燃料>先進バイオ燃料となるよう課税額を設定しております。
「バイオベース、生分解性、堆肥化可能なプラスチックに関する政策枠組」
これは2022年11月に発表された法的拘束力のない文書です。バイオマスプラスチック、生分解性プラスチック、堆肥化可能プラスチック、の3種に分けて、今後のEUのバイオマスプラスチックに関する考え方と方針が示されています。
廃棄物や副産物のバイオマス原料は一次バイオマス(木材など)よりも優先されることが示唆されております。
この規制は前回に登場したばかりですね。現在のところ、バイオマスプラスチックはリサイクルプラスチック利用率の目標にはカウントされないです。一方、欧州委員会は2028年2月までに、上記の「REDIII」におけるバイオ燃料の扱いも参考にして、再検討を行うとしています。
これは、バイオ燃料のルールがバイオマスプラスチックのルールに波及することを示唆しています。私の予想では、上述した「REDIII」の「先進バイオ燃料」の定義を満たせば、包装へのバイオマスプラスチックもリサイクル利用率としてカウントされる方向になると思います。
第4回と前回も登場した「EUタクソノミ規則」は、グリーンな経済活動を定義するルールで、投資家がサステナブル投資を判断しやすくするために導入されました。気候変動対策、再エネ、サーキュラーエコノミーなど、幅広い活動が対象です。
このEUタクソノミの中では、なぜかプラスチック包装のバイオマス原料においては、バイオ廃棄物のみがグリーンとして定義されています。前回も、私の感触ではEUタクソノミのグリーン定義には法的拘束力があるわけではないので、他の環境規制よりも高水準な要件が書いてあることが多い印象と述べました。先進バイオ燃料の定義の中でも、特に廃棄物を使ったものは環境価値が高いと欧州委員会に思われているのでしょう。
「EU森林破壊制限規則」通称:EUDR
図3のように、牛、ココア、コーヒー、パーム油、大豆、木材、木炭、天然ゴムとその派生製品は、森林破壊が行われていないかのデューデリジェンス(DD)の義務が生じます。
※第9回でもDDは登場済。

図3
【図の出展】FINNISH FOOD AUTHORITY(2024年11月)
以上、バイオマスプラスチックの絡むEUの環境規制を網羅的に取り上げました。これらの内容から俯瞰できるトレンドとして、バイオマスプラスチックの採用を考える際には、特にバイオマス原料の選択に注意する必要があることです。先進バイオ燃料の定義に含まれる原料、すなわち、セルロース系などの非可食原料やバイオ廃棄物であれば、将来のEU規制によって使用制限や禁止などの憂き目に会う可能性は低そうではないかと思います。
現時点でもバイオマスプラスチックはコストが高いですから、上述のようにEUがバイオマス原料の制限をすることで、2030年以降に更にコスト高にならないかと懸念しております。
さて、次回はいよいよ最終回です。
この記事を締めくくるにあたり、EU政策の中核を担う「DG」について少し触れておきたいと思います。EUには様々な分野を取り仕切る部門があり、それらは「Directorate-General(総局)」、略して「DG」と呼ばれています。
例えば、DG-GROW(成長総局)は産業政策や技術革新を担当し、日本でいう経済産業省に近い役割を果たしています。一方で、DG-ENV(環境総局)は環境保護や循環経済の推進を担っており、日本の環境省に相当する位置づけです。この2つの総局は、バイオマスに関連する政策にも役割を果たしています。
以前、欧州委員会の担当者の方々とバイオマスプラスチックについて話す機会がありました。その中で特に印象的だったのが、DG-GROWの担当者との会話です。彼らは、産業界の声をしっかりと拾い上げながら、現実的な目標や政策を練り上げようとしていました。
例えば、「包装廃棄物規則(PPWR)」や「廃自動車規則(ELV規則)」のリサイクル目標に、バイオマスプラスチックやケミカルリサイクルも取り入れたい意向があることを教えてくれました。
EUの環境規制は、一方的に強く押し付けるイメージを持たれがちですが、実際には産業界と連携し、現実的な道筋を模索している担当者や組織も存在しているのだと実感しました。
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writer |
米久保 秀明

2005年に東京大学大学院修了。キヤノン株式会社入社後、レーザービームプリンタの製品開発に14年間従事。その後、旭化成株式会社で資源循環に関するプロジェクトに従事し後に、ドイツに駐在。4年弱の間、欧州におけるサステナビリティ全般の動向調査に携わる。うち2年間は、ブリュッセルのNPO法人であるJBCE(在欧日系ビジネス協議会)にて、気候変動ワーキンググループ担当の事務局員を兼務。2025年4月より、プラスチック資源循環を推進するスタートアップ、株式会社esaに参画。
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